紙パック式掃除機の仕組みと、その長所や短所についてご説明させて頂きます。
始めに
掃除機選びで多くの人が悩むのが、紙パック式掃除機にするかサイクロン式掃除機にするかと言う問題ですね。どちらが良いのか決めかねて頭を痛めている方も多いでしょう。ですが悩む必要は全くありません。何故なら既にハッキリとした優劣が付いているからです。
ネット上にはそれぞれの長所短所を表にまとめている所がありますが、どちらも一長一短があり互角の勝負の勝負の様に見えるでしょう? ですが、こうしたサイトの情報の殆どがあからさまなバイアスがかかっています。これはメーカーサイトも例外ではありません。それは、一口に言うと「売る側に都合の良い理屈」と言う事ですね。
掃除機にお詳しい方ならあの手のサイトを見たら指を差して笑うでしょうが、一般の皆さんにはそのトリックは見破れないと思います。向こうもそんな事は百も承知で、知らない人間を釣り上げて金儲けをしている訳ですね。
慇懃無礼な詐欺師連中に引っかかってハズレを掴まされないためには、残念ながら掃除機について少しお勉強をするしかありません。掃除機をお使いになるのはご婦人方が多いでしょうから、なるべく女性方にも分かりやすく説明して行きたいと思います。
文字ばかりだからと言って、逃げ出しちゃダメですよ(笑)
紙パック式掃除機
紙パック式掃除機の歴史
紙パック式掃除機が発明されたのは1980年代の事です。それまでの真空掃除機はゴミ捨ての度にウレタン製やプラスチック製のフィルタに積もった粉塵を叩き落とさねばならず、それは全身埃だらけになる大変な汚れ作業でした。中高年の方なら親に言われてやらされた経験がある方もいると思います。
私のようにね(笑)
それはともかく、紙パック式掃除機の登場によって真空掃除機で最も嫌われたゴミ捨てやフィルタ掃除の面倒から解放された事で電気掃除機は一気に普及して、一家に1台の時代から一家に数台、あるいは1人に1台の時代になりました。さらにキャニスター型のみだった本体バリエーションも豊富になり、TPOに合わせて様々なタイプの掃除機が発売されるようになりました。
紙パック式掃除機が発明されていなければ、今ほど多くの種類の掃除機は発売されていないでしょう。
現在ではかつての吸引力自慢一辺倒から花粉等のアレルゲン対策用の高性能紙パックを搭載した物や、共働き家庭のために深夜の掃除に耐えられる静音性の高い物、あるいは小型軽量化を追求した物まで様々な用途対応したモデルが発売されています。

紙パック式掃除機の仕組み
それでは紙パック掃除機の仕組みを見てみましょう。もっとも、紙パック掃除機の仕組みは非常にシンプルです。ゴミと空気を分離する紙パックとフィルタ、それに吸引力を生み出すモーターとファンのみです。炊飯器のように特殊な機能が山ほど付いている訳ではありませんから、頭を悩ます事は少ないでしょう(笑)
こちらは東芝のHPからお借りした一般的な紙パック掃除機の模式図です。ホースで吸い取ったゴミ混じりの空気は紙パックでゴミを分離しゴミだけ蓄えられます。紙パックをすり抜けた細かい塵はフィルタでさらに濾過され外へ排気されます。
こちらは三菱のHPからお借りした雷神シリーズの構造図です。実際にカットモデルを見ると印象が全然違いますが、構造的には上の模式図と同じですね。
一気にクォリティーが落ちましたが、こちらは私が作った本体部分の概念図です(笑)
上は各パーツの名前、下の説明は吸い込んだゴミ混じりの空気の流れを表しています。吸い込んだ空気は紙パックを含めて3つのフィルタで濾過され、途中でモーターの冷却用に再利用された後で外へ排気されています。
「排気が綺麗な掃除機」とはこの3つのフィルタの性能が高く、空気の漏れが無い物を指します。フィルタの性能が上がると空気が通りにくく(圧力損失が大きく)なり吸引力が落ちますから、強力で高性能なモーターが必要になります。当然ですが本体構造も複雑で重くなり、紙パックを含めて非常に高価になります。逆に、安物掃除機は排気から塵がダダ漏れになります(笑)
また、掃除機の密閉した空間の中でモーターには多大な負荷がかかっています。ストローの先を指で押さえてストローを吸うと皆さん顔が真っ赤になると思いますが、掃除機のモーターはこれと同じ事を強いられている訳ですね。当然ですがモーターは非常に熱くなりますから冷やしてやる必要が出て来ます。これがモーターの冷却です。
冷却には図の様に吸い込んだ空気を再利用します。モーターは細かい塵を吸い込むと故障の原因になりますから、モーター前フィルタで塵を除去してやる必要があります。その為にモーター前フィルタを装備している訳ですね。また、モーター自身も細かいカーボンカス等の塵を出しますからこれを最終フィルタで除去します。
モーターの冷却に汚れた空気を再利用する理由は2つあります。1つ目は吸引力の維持ですね。例えば本体側面に吸入口を付けてそこから空気を取り込む事も出来ますが、そうするとそこから空気を吸い込んでしまいホースから吸い込む力が落ちてしまいます。掃除機にとって吸引力は命ですから空気を漏らす訳には行きません。
2つ目は騒音の問題です。空気が漏れている部分からは空気が中に侵入しますが、逆にそこから音が外に漏れてしまいます。掃除機のモーターは文字通り悲鳴を上げていますから可能な限り密閉する事が望ましいです。「音の静かな掃除機」とは密閉度が高く、本体の振動が少なく音の反響を抑えた掃除機を指します。当然ですが本体は重く大きくなり値段も高くなります。逆に、安物掃除機はスキマだらけで音が漏れまくります(笑)
ただ、密閉度が高い方が良いとは言え排気口を設けないと空気を吸えなくなってしまいます。ですから1つ上の三菱の雷神の様に、モーターにカバーをした上で吸音材を使って排気口から漏れる音を減らしています。静かな掃除機が高いのはこうしたコストがかかるからですね。
逆に「軽い掃除機」はこうした余計なパーツを積む事は出来ません。モーターも小型で吸引力が落ちますから高性能なフィルタは使えません。さらに本体の強度を限界まで下げて軽量化していますから「軽くて排気の綺麗な掃除機」や「軽くて静かな掃除機」は存在しません。軽い掃除機とは「他の全ての要素を犠牲にしてでも軽さを追求した掃除機」と言う意味です。軽い掃除機をお望みの方はその事をしっかりと頭に入れておいて下さいね。
紙パック掃除機の仕組みは大体お分かり頂けたでしょうか? 空気清浄機の項をお読みになった方は掃除機と空気清浄機が構造的によく似ていると言った意味がお分かりになったと思います。だだ、一つだけ決定的に違う事が1つあります。お分かりになりますか?
それは、掃除機には脱臭フィルタは装備されていないと言う事です。「排気の綺麗な掃除機」は存在しますが「排気の臭わない掃除機」は存在しません。理由は簡単で本格的な脱臭フィルタを付けたら極端に吸引力が落ちるからですね。
「排気は臭わないが吸引力の弱いただ一つの掃除機」、なーんてその内にダイソン辺りが作るかもしれません。
既に似たような物を作ってますからね(笑)



紙パック式掃除機の長所
それでは紙パック式掃除機の長所を見て行きましょう。前回、紙パック掃除機は真空掃除機の改良型と言うお話をしましたが、改良型である以上は一番の長所は改良点、つまり紙パックを装着した事で劇的にお手入れが楽になったと言う事です。
電気掃除機における紙パック式の発明は画期的な事でした。このお陰でごみ捨てで埃だらけになる事も無く、さらに中級以上の紙パック式掃除機にはコードを巻き取る度に紙パックの目詰まりを防ぐ装置が搭載されていますからゴミ捨て時以外に本体を開ける必要もありません。紙パックの性能も向上していますからフィルタ類のお手入れも不要です。
つまり、事実上紙パック式掃除機は完全にメンテナンスフリーな家電製品と言う事になります。唯一の作業は数カ月に1度、ゴミで一杯になった紙パックを交換するだけです。通常使用でこれ以外のお手入れは一切不要です。
主に女性がお使いになる機械に取って定期的なメンテナンスが不要である事は何にも変えがたい長所です。また、ゴミ捨ての際に埃が全く出ませんから手も汚れませんし、真夏であろうと真冬であろうとゴミ捨ては快適な屋内で簡単に済まされます。地味ですがこれも大きなメリットです。
主婦の皆さんには、紙パック式掃除機はトイレ掃除が全く不要な家と同じ、と言うと分かりやすいかもしれません。他の方式は程度の差はあれ必ず掃除しなければなりませんが紙パック式は一切不要です。こう考えると紙パック式の利便性がどう言う物だかお分かりになると思います。
掃除機と言うのは室内のゴミや汚物を集めるのが仕事ですが、集めた汚物を捨てるのは人間がしてやらねばなりません。そして、各方式によって一番違いが出るのが汚物を捨てる際と、その後のお手入れです。
紙パック掃除機はゴミ捨ての際に一切手は汚れませんしフィルタ類のお手入れも不要です。こんな掃除機は他にはありません。

紙パック式掃除機の短所
ランニングコストの問題
正直に言って紙パック式掃除機に短所らしい短所はありません。ただ、弱点はいくつかあります。ネットで検索すると「紙パック式は紙パック代がかかるから不経済」なんてイタい事を書いてる人達がいますがこれは嘘なんで騙されないで下さいね。
紙パック式とサイクロン式とのコスト比較は次章で詳しくやりますが、同程度の性能だとサイクロン式はイニシャルコストが1万円以上高くなり、交換紙パックのコストを含めても紙パック式の方がトータルでお安くなります。つまり、通常使用の範囲では紙パック式の方がリーズナブルだと言う事です。まあ、偽サイクロンを除けばですが(笑)
- 但し、例外はあります。例えば綺麗な排気を求める場合は高価な紙パックを使わねばなりません。通常モデルなら純正品でも1枚100円程度ですが、高性能紙パックだと500円程度の物もあります。高性能タイプは通常タイプより長寿命化していますが、それでも通常の2~3倍の価格になります。
掃除機に空気清浄機並みの排気の綺麗さを求めるご家庭で、なおかつ部活通いのお子さんが何人もいたりペットの多頭飼い等で大量のごみが出る場合は、紙パックのランニングコストも馬鹿には出来ません。紙パック代が惜しいとお考えなら通常タイプの紙パックにするかサイクロン式にするしかありません。但し、トイレ掃除は必須になりますが(笑)

微小な粉塵に対する弱さの問題
もう一つ。紙パックの最大の弱点が微小な粉塵に弱いと言う事です。日本の一般家庭の場合はごみの大半は糸くずや綿埃のような繊維系の物なのであまり問題はないのですが、大量にこぼれた小麦粉のような細かい粉塵を紙パック式掃除機で吸い取ると、短期間で紙パックが目詰まりを起こしてしまいます。
先にお話しした様に紙パックは一種のフィルタですから小麦粉の様な粉類を苦手にしています。ですから大量の小麦粉の移送を圧縮空気で送る場合はフィルタを使えません。そこで考え出されたのがサイクロン(紛体分離器)です。元々、サイクロンは大量の粉や灰等を分離するのに作られました。
ですから、ご自宅が商店で小麦粉などを大量に扱う場合や、環境的に土埃が多いご家庭はサイクロン式の方が適している場合もあります。これは程度の問題なので一概には言えませんが、こうしたご家庭で頻繁に紙パックを交換している場合はサイクロン式に乗り換える方が安上がりになります。但し、トイレ掃除が待ってますが(笑)

ゴミが溜まると吸引力が落ちる問題
これもよくサイクロン式との比較で紙パック式の欠点として語られますね。確かに紙パック式はゴミが溜まると吸引力が落ちるのですが、予めこの低下分のマージンを取って最初からサイクロン式の2~3倍の吸引力を持っています。限界以上に吸引力が落ちた場合は紙パック交換のサインが出ますので実用上の問題はありません。
逆に言うと、サイクロン式は最初からゴミが満タンの紙パック式掃除機程度の吸引力しか持っていないと言う事ですね(笑) サイクロン式はきちんとお手入れをしてやれば吸引力の低下は少ないのですが、新品時でも十分に吸引力が弱いのがサイクロンの欠点の一つです。
論理をすり替えて欠点を隠して長所と見せかける、ダイソンお得意の手品みたいなレトリックですが、口先だけでは部屋は綺麗になりませんから騙されないで下さいね(笑)

臭いの問題
最後は臭いの問題です。紙パック式はゴミを溜める構造になってますから、夏場などにゴミを溜めておくと悪臭が発生する恐れがあります。抗菌型や消臭機能を持った掃除機もありますが、ゴミを積み重ねる構造上完全に悪臭の発生を防ぐのは無理だと思って下さい。夏場は紙パックの交換時期を早めるのが一番の対処法です。
これに関して、「サイクロン式はマメにゴミを捨てるから悪臭はしない」なんて嘘を広めてる人達がいるみたいですが、そんな事はありません(笑)
確かにサイクロン式はマメにゴミを捨てるのですが、その代わりにゴミが直接ダストカップに触れます。プラスチック製のダストカップの中でゴミが高速回転するので、内側には目に見えない沢山のキズが付いています。この部分に有機物のゴミが付着してバクテリアが増殖すると、ダストカップ自体が悪臭を放つ事になります。
ですからダストカップ自体を水洗い、もしくは除菌出来ないタイプのサイクロン式を選んでしまうと、時間経過と共に掃除機が悪臭発生装置になる可能性があります。
もっともらしい嘘に騙されないで下さいね。臭いがしない掃除機など世界中どこにもありませんよ(笑)

結論
結論としては、現在日本の一般家庭で使う掃除機としては単位電力辺りの吸引力、ゴミ捨ての容易さ、お手入れの楽さ、能力に対する販売価格、総合的に一番優れているのが紙パック式です。ですから、紙パック代が苦痛に感じるほど大量に交換しなければならない特殊なケースを除いて、基本的に紙パック式掃除機の中からお選びになる事をお勧めします。
別にサイクロン式が悪い訳ではありませんが、純粋に掃除をする機械として考えればサイクロン掃除機を選ぶメリットはほとんどありません。作業場の床にこぼれた粉を吸うとか、暖炉に残った灰を吸うとか言うなら別ですが、そうした物には業務用の専用機がありますし一般家庭には無縁です。
まあ、家電選びは性能以外の部分も大きな要素の一つですから無理強いはしませんが、何か特別な理由が無いのなら紙パック式掃除機をお選びになるのをお勧めします。
掃除機トップへ戻る
- 関連記事