プレミア(高級)炊飯器とガス炊飯器について、その仕組みや特徴をご説明させて頂きます。
始めに
前回に続きまして、タイプ別のチェックポイントのお話になります。今回はプレミア、ガス炊飯器編になります。
特にプレミア炊飯器は様々な技術が投入されていて比較が難しいのですが、なるべく噛み砕いてご説明させて頂きます。まあ、純粋に技術の投入合戦なら私も楽しいのですが、残念ながらメーカーが語る「技術」の大半がオカルトだったりします(笑)
そう言う意味ではあまり楽しくないのですが、嘘とハッタリと印象操作の渦巻く家電の世界なんて夢も希望もありませんから、ダメな物はダメだとハッキリ書かせてもらいます。
ちょっと難しいかもしれませんが、頑張って読んで下さいね(笑)
プレミア(高級)炊飯器
プレミア(高級)炊飯器の歴史
2006年、三菱電機は削り出した炭素の固まりを内釜に使った、それまでに無い炊飯器を発売しました。10万円と言う高価格設定にも関わらず、大方の予想を裏切って大量のバックオーダーを抱える大ヒット商品になりました。それが「本炭釜シリーズ」です。
それまでも新技術が投入されたモデルは高額でしたが、時間が経ち量産効果が出始めると徐々に価格は下がってきます。ですがこのシリーズは違います。なぜなら、これは「50代以上の男性をターゲットにした高級品」として作られているからです。新技術だから高いのではなく、最初から高い商品として開発されていた訳ですね。
これがプレミアクラス、高級炊飯器の始まりです。
プレミア(高級)炊飯器の仕組み
プレミア炊飯器の仕組みと言っても、発熱方式はIHか圧力IH方式ですから違いはありません。違いがあるのは内釜の種類や材質と追加されたギミックの類です。
では次に、個々のギミックについて見て行きましょう。
内釜
内釜に関しては最初にお話した通り、単一素材の製造原価の高い極端な性質を持った内釜と、コーティングに凝った中庸な性質の多層釜とがあります。内釜はプレミア炊飯器の目玉の1つだけに各社宣伝に余念がありませんが、冷静に考えるとその効能に首を傾げたくなるものも少なくありません。
例えば象印の南部鉄釜ですが、これなんか南部鉄である必然性が何もありません。鍛造だろうと鋳造だろうと鉄としての特性は大して変わりませんから、わざわざ無駄に製造原価の高い南部鉄を使う理由が無いのです。要は単に「南部鉄」と言うブランド名が欲しかっただけでしょうね。
内釜の形もかまど釜に似せてる物が増えて来ましたが、これも意味不明です。羽根が付いているのは釜がかまどにはまり込まない様にしているだけですし、底が丸いのはご飯がよそい易くて強度が保てるからです。大体、直火で釜底を火がなめるのを前提に作られているかまど釜と、釜自体が発熱するIHとでは理想的な形が違ってきて当たり前なんですが、どうもメーカーはそうは考えないみたいですね。
炭素釜と土鍋釜は似た特性と大きく異なる特性がある別物なんですが、何れも炊き上がりは硬めです。これは内釜の種類よりIH式の性質が強く出ているものと思われます。
皆さんプレミア炊飯器だと内釜の種類ばかり注視しますが、忘れてならないのは全て別メーカーの商品で、発熱方式も加熱のプロセスも異なると言う事です。同じコンロを使って加熱するならば釜の違いは味の違いに直結するでしょうが、加熱の方式やプロセスが異なれば同じ釜でも味は違って来ます。
スタートラインも違えばコースも違うのに、ゴールだけ一律にして釜の優劣を量ろうとする事自体に無理があります。無理して優劣をつけようとするから、オカルトにつけ込まれて高いお布施を払わされる訳ですね(笑)
前回お話したように、電気炊飯器のネックは絶対的な火力不足です。火力が足りない電気炊飯器で美味しいご飯を炊こうと言うのは、とろ火しか出ないコンロで美味いチャーハンを作ろうと言うのと同じです。
この時、鍋だけを高級品に変えたら美味いチャーハンが出来るでしょうか? そんな訳ないですよね(笑)
高級内釜はメーカーが喧伝するほど素晴らしい特性や能力を持っている訳ではなく、その大半はオカルトによるプラシーボ効果で出来ています。
もちろん皆さんが何を信仰しようと自由ですが、電気炊飯器の中で最もコストパフォーマンスが悪いのがこの高級内釜です。その事だけは頭の片隅にでも入れておいて下さいね。

可変圧力方式
三洋方式
可変圧力方式とは今は無き三洋電機が開発したユニークな方式で、加圧状態から一気に減圧する事で爆発的に沸騰させてお米を攪拌させる方式です。お米を大きく攪拌させる事で炊きムラを減らします。
加圧状態だと水の沸点は100℃を越えます。仮に1.2気圧だと105℃にもなります。この状態で沸騰寸前まで加熱しておいて一気に減圧して1気圧に戻すと、105℃のままのお湯は激しく沸騰します。この際、中のお米は100℃で沸騰する時より激しく攪拌され、結果的に炊きムラが減るわけですね。
電気炊飯器のネックは火力不足でお米がきちんと対流しないので炊きムラが起こる事なんですが、三洋の開発陣はこの問題をお湯に高熱を蓄える事で解決したわけです。素晴らしいアイデアですね。
但しこの方式には1つだけ欠点があって、一気に減圧するために圧力弁が2つあります。そのために弁の開閉の際の騒音が2倍になる事です。早い話が非常にうるさい炊飯器と言う事ですね(笑)
お買いになる前に、設置場所と使用する時間帯についてきちんと考えて下さいね。じゃないと睡眠不足になりますよ(笑)

象印方式
さてさて、もう1つ。実は可変圧力方式は象印なんかも採用しています。こちらは文字通りの方式で、炊く物やコースによって最大圧力を変化させると言うものです。三洋方式のようにお米を攪拌はしませんが、きめ細かい設定で最適に炊き上げます。
任意の圧力に対応するために、こちらの圧力弁は電気式になっています。センサーと連動して強制的に弁を開閉しているわけですね。
同じ可変圧力方式と言っても2種類ありますから間違わないように気をつけて下さいね。

炊きムラについて
炊きムラの話が出たのでついでにご説明しておきましょう。電気炊飯器にとって炊きムラは永遠の課題なんですが、炊きムラが出るのは電気式ばかりではありません。ガス炊飯器はもちろん、かまどだって炊きムラは起こります。要は程度の問題なんですね。
「炊き上がったご飯には美味しい所とそうでない所がある」なんて話を聴いた事がある方もいらっしゃると思います。実際にそうなんですが、この原因となっているのが炊きムラです。
左の図はご飯が炊きあがった所を真上から見た図です。この図のオレンジ色の部分が一番美味しいと言われている部分ですね。
ご覧の通り、大釜と小釜では異なりますが、一般の5.5合炊きだと大釜と同じように炊き上がります。また、美味しいのは表層の部分で、下に行くほど味は落ちて行きます。
炊きムラの原因は温度差です。釜に近い外側の部分は火が通り過ぎて固くなり、中心は火が弱すぎて固くなります。
大火力で沸騰させてお米を攪拌すれば炊きムラは減りますが、蒸らしの段階で熱の通り方が違ってきますので炊きムラがゼロになる訳ではありません。かまどでも同じ様に起こります。
ご飯が炊き上がったら皆さん大きく混ぜると思いますが、あれには幾つか理由がありまして、その内の1つが味のばらつきを無くす事なんです。混ぜないとご飯をよそう時に美味しいのと不味いのが出て来ます。
余談ですが、昔はこれが嫁と姑の嫌がらせ合戦に使われました。不味い所をよそって嫁に食わせるわけです。ですから姑はなかなかかまどの実権を嫁に渡しませんでした(笑)
かまどの実権が嫁に移ったら今度は嫁の復讐です。食い物の恨みは恐ろしいものですね(笑)

おねば
おねばと言うのは炊飯時に出て来る粘液質の液体の事なんですが、電気炊飯器は吹きこぼれを出す訳にはいかないために、長い事おねばが出ないように火力を抑えて来ました。ところが、最近の研究でこのおねばがうま味成分で出来ている事が分かってからは、各社共おねばを利用するギミックを搭載するようになりました。
呼び方こそ違いますが、沸騰時に出たおねばを一旦別のタンクに蓄えて、蒸らしの工程で液体のままかスチームに混ぜてご飯に戻す、と言うやり方はどのメーカーも同じです。
おねばはお米に特有の水溶性のデンプン(通常のデンプンは水に溶けない)が主成分です。デンプンはブドウ糖の塊ですから、通常のデンプンより分解されやすい水溶性デンプンはお米の甘味に変化しやすくなります。
但し、実際に実験して成分分析をした限りでは、甘味成分の増加は微量で劇的な変化は無いそうです。針小棒大、白髪三千丈が当たり前の炊飯器の世界ですから、メーカーの宣伝文句は話半分くらいに考えるのが良いでしょう(笑)

蒸気カット
スチーム関係には2種類あります。1つは外部に放出される蒸気を抑える蒸気カットと、もう1つは蒸らし工程でご飯に蒸気を吹き付けるスチーム機能です。日立の場合はカットした蒸気を水に戻して、後でスチームとして再使用します。
上の写真は日立の蒸気カットありとなしの炊飯時の違いです。効果は一目瞭然ですね。
蒸気カットのメカニズムは非常にシンプルです。湧き上がった蒸気を別のタンクに誘導して、そこで冷やして結露させて水に戻します。電気も使いませんしこれ自体が故障する事はありませんが、ただ一つ、洗浄する部品が増えますからお手入れは面倒になります。
炊飯器に蒸気は付き物ですからあまり気になさらない方も多いと思いますが、これが意外とやっかいな代物で、場合によっては色々な問題を引き起こします。
ヤケドは注意していれば防げるのですが、もう一つの問題がカビです。特に機密の高いマンションなどにお住まいの方の中には、炊飯器の後ろの壁にカビが生えた、なんて方もいらっしゃいます。場合によってはご飯の味以上に重要な選択材料になります。
蒸気レスは無くても困りませんが、有ると便利な機能です。メカニズム自体は単純な物ですから、蒸気を冷却し貯水するスペースさえ確保出来れば搭載も容易ですし、特に故障等の心配もありません。この手のギミックは上位モデルの定番なんですが、開発メーカーの三菱以外では日立が搭載しただけで、残念ながら他のメーカーは追随していません。
恐らくサイズの制約からでしょうが、派手だが中身の無い機能を追加するくらいだったら、こうした地味だが役に立つ機能をもっと搭載して欲しいものですね。


チョコっと豆知識~本当は怖い炊飯器の蒸気~ |
国民生活センターの発表によりますと、炊飯器の蒸気が原因でのヤケドが2004~9年の5年間で177件も報告されています。その内の150件が10歳未満の子供で、中には皮膚の移植手術が必要な重症患者もいたそうです。子供の手の届く所に炊飯器を置いていた親にも責任はあるでしょうが、ちょっと見過ごす事の出来ない数字です。小さなお子さんや高齢者がおられるご家庭はお気を付け下さいね。 |
スチーム機能
さて、カットの次は吹き付ける方です。炊飯時にも利用されていますが、こうしたスチーム機能の主眼は、長時間保温時の水分の消失を補う事にあります。
お米に熱と水を与えるとデンプンがゲル化してふっくらとした甘みのあるご飯になります。これをデンプンの糊化(α化)と呼びます。逆に、ご飯から熱を奪うと水分が抜けて固くなります。これを同じく老化(β化)と呼びます。老化は約60℃を下回ると進行しますので、保温時の温度は60℃以上(短時間保温の場合は70℃強)に設定されています。
60℃以上で保温すれば老化は抑えられるのですが、ご飯を長時間加熱し続ける事になりますので水分が蒸発して行きます。結果的に老化と同じ様にご飯が固くなります。これを抑えるためにスチームを吹き付ける、早い話がお湯を吹き付けて水分を補う訳ですね(笑)
考え方はシンプルですし、それなりに効果もあるのですが、これはスーパーなどが売れ残った青野菜に霧吹きで水を吹きかけて翌日に出すのと同じで、これをみずみずしい野菜と呼ぶのか水っぽい野菜と呼ぶかは評価の分かれる所です。前者とお思いの方には良いかもしれません。
ただ、水を加熱して蒸気にするメカニズムはスチーム式の加湿器と同じですので、長く使っているとヒーター部分にミネラル分が付着してきます。こびり付くと厄介ですのでマメな手入れが必要になります。

真空機能
真空断熱
お次は真空機能です。但し、真空と言っても2種類あります。断熱のための真空と実際に減圧する「なんちゃって真空」です。
断熱の方の意図は明確です。発生した熱を外に漏らさず効率的に利用しようとするものです。
断熱自体は各社とも工夫をしているのですが、空気による熱伝導の無い真空断熱層を設けるのは効果が高く、そのために内釜や本体内部に真空層を設けて断熱している訳です。
なぁんて書くと、凄いように思われるかもしれませんが、魔法瓶会社の象印でさえさっさと止めてしまいました(笑) 効果はありますがコストに見合わない程度だったのでしょう。
今は日立が細々とやっているだけです。まあ、その程度のものだったわけですね(笑)

なんちゃって真空
もう一つの東芝の「なんちゃって真空」なんですが、こちらは釜内を0.55気圧まで減圧する事で、米に短時間で水を吸わせて炊くのと長時間保温が目的になります。
単に減圧するだけですので、一般的な意味での真空(空気が殆ど無い状態)とは異なります。「真空だから保温しても味が落ちない」なんて口コミに書いちゃってる味覚音痴の人がいますが、そもそも真空じゃありませんから程度の差はあれ普通に味は劣化します(笑)
工業用語においては少しでも減圧するだけで「真空」と呼ぶのですが、明らかにミスリードを誘う表現であり、あまり気分の良いものではありません。一般の方々は工業用語の定義など知らないでしょう。
東芝流が許されるなら高崎山の猿は「真空猿」になってしまいますね(笑)
さて、東芝がどんな会社だろうと売ってる炊飯器の出来が良ければ問題ないのですが、この真空機能には色々と疑問が残ります。
何と言ってもメカニズム的に問題が多いです。圧力式ですので減圧しても問題なさそうに見えるのですが、加圧と減圧双方にに耐える構造は何れか一方に対応するより遥かに難易度が高く、気密周りでのトラブルの確率が跳ね上がります。
構造にもよるので推定ですが、蓋の気密部分にかかる荷重は内からと外からと双方で70~90kg程度かかって来ると思います。全金属製のしっかりした筐体と、蓋のロックをレバー式とかにするならともかく、通常の柔なプラスチック製の筐体とボタン式のロック機構で長期使用に耐えられるのかどうか疑問です。
しかも、限界を超えて小型化した真空ポンプや制御用の圧力センサーなど、修理屋の目から見ると後々問題が起きそうなパーツを数多く使っています。
これだけ複雑なメカニズムを搭載しながら、その効果にも疑問が残ります。現在では精米技術も進歩していますから、以前ほど長時間米を水に浸す必要は無くなって来ています。仮に必要が有ったとしても、それを強制的に機械で行うメリットと予想されるトラブルのデメリットを考えると、ハイリスク・ローリターンな機能と言わざるを得ません。
また保温に関してですが、保温による味の劣化と言うのは酸化だけではありませんし、減圧する事でマイナス要素も働いて来ると思うのですが、そんな事には一切触れていません。
どうも最近の東芝の家電は迷走気味で、6月には大量の発火リコールを出しています。基礎技術は高い物を持っているのに、優秀なプロジェクトリーダーやデザイナーがいないのでしょうか? 何れにせよ、このギミックは正直言ってお勧め出来ません。

チョコっと豆知識~身の回りの真空~ |
日本工業規格(JIS)では「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」と定義されています。周りの環境との比較ですので1気圧以下とは限りません。また、少しでも減圧すれば良いので1気圧に近くても真空と呼びます。 ご家庭での代表的な真空技術が魔法瓶です。こちらは「超高真空状態」と呼ばれる宇宙空間に近い状態の真空です。これが高い断熱性を実現しています。 またインスタント食品に使われるフリーズドライ製法は、減圧すると沸点が下がる(圧力IHの逆の応用)のを利用して、低温で一気に水分を蒸発させる事で栄養価を損なわず長期保存出来る食品作りに利用されています。 |
それ以外の機能
これら以外にも、謳い文句は素晴らしい機能が色々と搭載されていますが、あまり過度な期待はなさらない方が良いです。
中には成分分析機などを使ったもっともらしい数値が上げられていますが、内釜の項でお話した様にどんな物でもプラス要素とマイナス要素があります。数値が上がった項目だけを羅列されてもトータルでプラスになっている保障はどこにもありません。何せメーカーは都合の悪い事には全く触れませんから(笑)
余談になりますが、下手なギミックに固執するくらいなら炊飯量にこだわる方が余程美味しいご飯が炊けます。
先にお話した通り、電気炊飯器は最大炊飯量の7割程度で炊くと一番美味しく炊けます。ですから5.5合炊きなら4合弱ですね。逆に、2合程度しか炊かないのなら3合炊きを、5合以上お炊きになるなら1升炊きをお買いになる方が美味しいご飯が炊けます。
どんな高級炊飯器を買ったとしても、その能力を一番発揮出来る炊飯量を無視しては美味しいご飯には炊き上がりません。
高級炊飯器を買ったがイマイチ美味しくない、なんてお思いの方は炊飯量を見直してみて下さい。適量で炊けば、もしかしたら本来の美味しさが現れるかも知れません。
でも、適量で不味かった時は、潔く諦めて下さい(笑)
プレミア(高級)炊飯器の消費電力
プレミア(高級)炊飯器の消費電力はおよそこんな感じになります。
まあ当然ですが、高い数値になりますね。と言っても、このクラスの炊飯器をお買いになる方は電気代を気にする方は少ないでしょうからそれほど問題にはならないでしょう。
ただ、最大消費電力が高いので、同じコンセントから他の調理家電の電源を取って両方同時に動かすと確実にブレーカーが落ちます。特に消費電力の高い電子レンジと炊飯器は必ず別のコンセントから電源を取って下さいね。
サイズ | 炊飯時消費電力 | 1回当り炊飯時消費電力量 | 1時間当り保温時消費電力量 |
5.5合炊き | 1200~1420W | 147~184Wh | 12~20Wh |
プレミア(高級)炊飯器の欠点
プレミア炊飯器と言うのは、IHや圧力IH炊飯器に高価な内釜と特殊なギミックを載せた高級モデルの事ですから、欠点等は機種によって大きく異なります。ですから一概には言えません。
ただ、全てに共通している事として「設計にかなり無理がある」事が上げられます。
炊飯器をお買いになる方の大半は買い替えになりますから、古い炊飯器が置いてあったスペースの置けるサイズの物でないと売れません。つまり全体のサイズに大きな制約があるのです。
ところが、プレミア炊飯器の場合は特殊な形状の内釜を使う上に、数多くの特別なギミックも搭載しなければなりません。沢山の機能がある事が高級炊飯器の証、メーカーはそう考えています。言ってみれば、これは軽自動車にベンツと同じ装備を載せるような事をしている訳ですね。かなり無理をしています。
この夏の新型モデルではパナソニックが松下開発のIHとスチームと、三洋開発の可変圧力IHとおねば機能を1つに合わせたモデルを史上最強と謳って出しましたが、これなんか典型ですね。発想が貧乏臭い上に、きちんとバランスが取れてるのかどうか正直言って疑問です。
我々ユーザーが求めているのは美味しいご飯が炊ける炊飯器であって、能書きの多い炊飯器ではありません。バブル時代ならともかく、「色んな機能が沢山付いている物が高級」と言う感覚も時代錯誤と言わざるをえません。下手糞な料理人ほど色々な調味料を使いたがりますが、定見が無いから過剰に装飾した物を有り難がるのでしょう。
程度の差はあれ、プレミア炊飯器は効能の怪しい過剰装飾で出来ています。カタログを読んでいると、家電製品のカタログなのか、怪しげな健康食品のカタログなのか分からなくなって来ます(笑)
売る方は良いでしょうが、買った後で大量のトラブルに悩まされるのは消費者の側ですから衝動買いなど禁物です。特に高価な物だけに、ハズレを掴まされた時の腹立ちはひとしおです。
また、そうした複雑なギミックを沢山載せているためにお手入れは非常に面倒になります。特殊な内釜は重かったり壊れやすかったりしますから、体力以外に神経も使います。
旦那さんが奥さんを喜ばそうと高級炊飯器を買って来たら、毎日のお手入れの大変さから奥さんの機嫌がさらに悪くなったなんて話もありますから、色々な意味で短慮は厳禁ですよ(笑)
そう言う意味では、良し悪しの判断が非常に難しいのがプレミア炊飯器の最大の欠点と言えるかも知れませんね。
プレミア(高級)炊飯器の特徴
プレミア炊飯器の特徴は、何と言っても高い事です。別にふざけている訳ではありません。何せこのクラスの炊飯器は高くないと売れないのです。
ターゲットである中高年の男性は、大きな贅沢が望めない中で、せめてご飯だけでも美味い物が食べたいと言う潜在的な欲求を持っていました。そんな中、小さな贅沢(10万円)で望みが叶うならと飛びついたのです。それだけに同じ買うなら良い物、つまり男性好みの高度なギミックが搭載された高価な物が好まれる訳ですね。
まあ、自分で書いていて身につまされますが、この心情は痛いほど良く分かります(笑)
冷静に考えてみれば、釜を職人が手作りで作ろうと機械で作ろうと精度が同じなら差はありません。ですが「伝統職人が一つ一つ手作りで~」なんて言われるとコロッと乗ってしまうのが男心の弱い所で、日頃ブランドバックに目が無い奥さんや娘さんに眉をひそめておきながら、やってる事は大して変わらない訳ですね(笑)
こうした物の本質とあまり関係無い事柄を前面に押し出して来るのは、メーカーはまずイメージを売ろうとしていると言う事です。つまり、プレミア炊飯器の一番の売りは実力よりイメージだと言う事を忘れないで下さい。
機能的にはベースとなるIH、圧力IH方式の特徴が強く出ます。これに特殊な内釜や追加されたギミックの効果が調味料程度に加わります。つまり、プレミア炊飯器の価格の大半を占めるのは、この調味料部分と言う事ですね。この高価な香辛料にお金を払えるかどうかが購入の鍵となります。
残念ながら、炊飯器の口コミで味に関する部分は殆ど参考になりません。使っているお米も違えば、味の好みも味覚の鋭敏性も違います。それだけにお買いになるかどうかは、実際に試食されてからお決めになる事を強くお勧めします。
さてさて、ではプレミアクラスがお勧めなのはどんな方でしょうか? やはりそれは炊飯器にプレステージ性を求める方になります。
車のシートをファブリックから本皮に替えても運転が上手くなったり安全になったりしませんが、最高の物を手に入れたと言う満足感を味わう事が出来ます。こうした心理的満足感は、妥協の中からでは決して味わう事が出来ない代物だけにそれ自体が高い価値を持つ訳です。
「ラグジュアリーな炊飯器」などと言うと一見矛盾している様に思えますが、求める方によってはそれ自体に価値がありますから、それをお望みの方はお選びになると良いと思います。

ガス炊飯器
ガス炊飯器の歴史
ガスでご飯を炊くと言う発想は古くからあり、すでに明治時代には業務用の炊飯器(ガスかまど)が発売されています。ただ家庭用となると時代はずっと遅れて、家庭用電気炊飯器の登場後になって発売されました。
当時はまだ電気炊飯器の性能が低かったためにガス式は大きくシェアを伸ばしましたが、利便性に勝ったタイマー予約式の電気炊飯器が発売されると次第に顧客を失い、現在では主に業務用として使われています。
こうして家庭用ガス炊飯器はずっと不戦敗の状態を続けて来ました。
ところがプレミア炊飯器の登場から状況は変化し始めます。「美味しいご飯が炊けるなら高価な炊飯器も売れる」、これは開発が低調で電気炊飯器に比べて割高だったガス炊飯器には福音でした。去年、3年間の開発期間をかけて20年ぶりに完全な新型モデルが登場しましたが、今後開発が活発になれば大きな選択肢になるでしょう。
ガス炊飯器の仕組み
ガス炊飯器の仕組みは至ってシンプルです。ガスコンロの上に釜が乗っているだけですね。プレミアモデルでさえアルミ製内釜を使いマイコンで火力制御をしてるだけです。つまりマイコン式電気炊飯器と同じですね。ですからパロマのモデルなんかは炊飯器の上半分(釜の部分)が分離して持ち運べます。
ただ、カスコンロ部分は全金属製のしっかりした物ですから全体的に重く、さらにガス火を燃焼させるスペースが必要なためにどうしても全高が高くなります。奥行きはそれほど必要としませんが、全体的に電気炊飯器より一回り大きいとお考え下さい。
また、保温出来るジャー機能を持った物はガス以外に電気が必要になります。ガス火は火力が強すぎて保温には向きませんので、電気ヒーターを使って保温します。ただ、保温能力は電気炊飯器より劣るので多用は禁物です。

ガス炊飯器のガス消費量
ガス炊飯器のガスと電気の消費量はこんな感じです。
この数値は最大値の上にガス価格は地域差が大きく、しかも都市ガスとプロパンガスでは単価が倍ほど違うので単純に比較は出来ないのですが、一般の都市ガスを使う場合は一回の炊飯にかかるガス代は電気炊飯器と大差ありません。電気代が高い東電管轄だと都市ガスの方が安いかもしれませんね。
電気代と比べるとガス代の方が単価は高いのですが、ガス炊飯器は高い火力に物を言わせて炊飯時間が電気炊飯器の約半分で済みますから絶対的な消費量は少なく済みます。ですから、都市ガスを使う限りランニングコストは互角と見て良いでしょう。
サイズ | 最大ガス消費量 | 保温時最大消費電力 |
5.5合炊き | 1.28~2.15kW | 130~213W |
ガス炊飯器の欠点
ガス炊飯器の欠点は何と言ってもガスが要る事です。オール電化のご家庭はこの時点でアウトです。ガスを引いておられるご家庭でも空きコンセントが無ければ、ガスコンセントの増設が必要になります。露出配管で7千円くらいから、埋め込み配管だと2万円ほどの出費が別途必要になります。
二つ目はサイズの問題です。電気式も大型化が進み、全体ではガス式の方が小さい場合もあるのですが、底部にガスバーナーを抱えている関係でどうしても全高が高くなります。狭い台所だと置き場所に苦心する事になります。また、ガスコードの取り回しも面倒ですし、保温機能を持った物は電源コードの取り回しも考えねばなりません。
三つ目は低調な技術開発です。仁義無き戦いの体の電気式と違い、ガス式はずっと不戦敗を続けて来ました。そのため技術開発は進まず、特に保温機能では電気式に大きく遅れを取っています。味を大きく損なわないで保温出来るのは5~6時間が限界です。去年プレミアモデルが出たので改善されて行くかもしれませんが、20年間サボっていたツケは簡単には払えないでしょう。
ガス炊飯器の特徴
ガス炊飯器の一番の特徴はやはり強い火力にあります。1800℃のガス火は300℃程度までしか上がらないIH式の6倍の火力があります。この強火力で釜の底面から側面を広く加熱する事により、大きな対流を発生させご飯を攪拌します。そのため、炊きムラの少ない美味しいご飯に仕上がります。
IH式も熱量の総量だけならそれなりにあるのですが、特性上ガスの様な加熱が出来ません。ですから可変圧力式などは擬似的に対流を起こす事で炊きムラを減らしているのです。
また、構造がシンプルでお手入れも簡単ですし、発売されたばかりのプレミアモデルを除くと故障のリスクも低いです。さらにパッキンや内釜等の交換パーツの単価も安く、本体の故障を除けばご家庭で交換が可能です。
ガス炊飯器がお勧めなのは、七難八苦を乗り越えても美味しいご飯が食べたいと言う方です(笑)電気式からガス式への買い替えは、環境によっては非常な苦労を伴います。設置が済んでも保温等の各種機能は電気式より劣ります。それでも構わないなら悪い選択ではありません。
同様に、電気式の高級機の購入を予定されている方なども検討の余地があります。ガスで炊いたご飯の美味しさは定評がありますので、効果の程が不確かなオカルト釜よりも確実です。
次は大家族の方です。ガス式の強力な火力は大量に炊くほど威力を発揮しますから、一升以上炊く場合は圧倒的に有利になります。この量になると電気式は最低ランクのガス式にも太刀打ち出来ません。
それと、書き忘れていましたが、ガス炊飯器の最適な炊飯量は最大容量の半分だそうです。5合程度炊くご家庭は一升炊きを選ばれると良いでしょう。
導入のハードルは高いですが、一旦越えてしまえば確実な勝利を手中に収められるのがガス炊飯器です。我こそはと思う勇者の方はルビコン川を渡ってみてはいかがでしょう(笑)
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