掃除機の種類に、集塵方式の違い(紙パック、サイクロン、ロボット)や形式の違い(キャニスター、アップライト、ハンディー)について大まかにお話をします。
始めに
今までに炊飯器、空気清浄機、加湿器をご紹介させて頂きましたが、これらの家電をお持ちでない方も掃除機が無いご家庭は珍しいのではないかと思います。それくらい日本人にはポピュラーな家電が掃除機です。かつては家電の三種の神器とされ、構造も単純な真空式から紙パック式へ、そしてヘッドもモーターブラシが装備されて徐々に使いやすく改良されて来ました。国内家電メーカーにとっては長く平穏な時代でした。
1993年、太平の世は突然終わりを告げます。英国のダイソンが見た事も無い掃除機DC1を携えて上陸して来ます。サイクロン式と呼ばれるユニークな集塵方式と国産モデルに無い洗練されたデザインは、その破格の価格にも関わらず大きな注目を集め、続くDC2は日本市場に適したキャニスター型と言う事もありたちまちヒット商品になりました。
掃除機の世界にサイクロン式と言うクロフネが来襲したのです。
成熟した紙パック式製品を持ちながら、長く太平の世にかまけて積極的な商品開発を怠っていた国内メーカーはパニックに陥り、次々と泥縄でサイクロン式モデルを投入しますが急ごしらえの粗悪モデルではダイソンには対抗出来るはずも無く、泣く泣く市場の一角を明け渡す事になります。
現在ではサイクロン式のシェアは30%前後あり、さらにルンバに代表されるロボット式モデルがこれに加わり、じきに掃除機三国志と呼はれるような時代になるでしょう。
消費者の側からすれば選択肢が増えるのは良い事なのですが、各方式の特徴を理解せずに購入すると大金をドブに捨てる事になります。誇張ではありません、人によったら全く受け入れられないケースもあるからです。
特にサイクロン方式には名ばかりの偽商品が横行していて、知らずに買うと後で必ず後悔する事になります。
賢い買い物をするにはそれぞれの方式を理解した上で、お使いになる環境やご家庭の事情に即した物をお選びになる事が肝要です。既に掃除機はTPOで選ぶ時代です。賢い買い物をしましょう。
掃除機の種類
それでは個々の方式の説明に入る前に全体をざっと見渡してみます。各方式の仕組みや特徴などの詳しい説明は次章以降で行いますが、まずは大まかに特徴をを掴んで見ましょう。一口に掃除機と言っても国内外を含めて物凄い数の商品が発売されています。掃除機にお詳しい方には必要ありませんが、どんな掃除機を選べば良いのか分からないと言う皆さんはお手間でしょうけど全部読んでみて下さい。
どの方式、その形式にも一長一短がありますから安易に値段やデザインだけで飛び付いちゃダメですよ(笑)
掃除機の仕事は室内のゴミやホコリを空気と一緒に吸い込んで掃除機内部に溜める事です。この際にゴミと空気をどう分離するかと言う事と、分離したゴミをどう溜めて置くかで大きく方式が異なって来ます。これが集塵方式による違いです。大きく分けると4つありますが、分離能力の違いから全部で6種類の掃除機が発売されています。まずはここから見て行きましょう。
真空掃除機は現在の吸引式掃除機の元になった方式で、吸い込んだゴミ混じりの空気はモーター前フィルタでゴミと空気に分離され、ゴミはダストケースに溜められます。当然、モーター前フィルタは埃だらけになり、ごみ捨ての度に棒で叩くなり水洗いしなければならず、主婦の皆さんは埃だらけになりながら掃除機の掃除をしました。
ゴミ捨てに関しても、ダストケースの中のむき出しのゴミをゴミ箱に捨てる事になりますから大量の埃が舞って非常な汚れ仕事でした。ただ、構造が単純で故障の少ない方式ですから現在でも業務用の大型モデルではこの方式が採用されています。クリーニング業者の皆さんには同情します。
真空掃除機の大きな欠点であるゴミ捨て時に舞う埃と面倒なフィルタ掃除を解消した方式です。ダストケースに紙パックを取り付けてゴミと空気を紙パックで分離します。構造としては三角コーナーに水切りネットを取り付けるのと同じ原理ですが、シンプルなメカニズムにもかかわらずその効果は絶大で「手の汚れない掃除機」として爆発的にヒットしました。
それまでホウキを片手に真空式掃除機を横目に見ていた主婦の皆さんが一斉に飛び付いて、一般家庭に電気掃除機が一気に普及しました。電気掃除機史上、これは現在でも最大の発明ですね。
サイクロン掃除機はダイソンが有名ですが、別に彼が発明した訳ではなく既に1920年代には実用化されていました。吸引したゴミはサイクロン(紛体分離器)でゴミと空気に分離します。紙パックが必要ないと言うメリットはありますが、構造が複雑で大型化が必須な上に余りにもエネルギーロスの多いこの方式は当時殆ど評価されず、幾多の奇抜な方式と共に長く墓場に埋もれていました。
ダイソンはそれを掘り起こして自分の発明だと言い張っただけの話です。技術的には紙パック以前の物ですから、紙パックを使わない代わりに「手が汚れる掃除機」に逆戻りしてしまいました。どのメーカーもだんまりを決め込んでますが、サイクロン式のフィルタ掃除は大変ですよ(笑)
似非サイクロン掃除機と言うのはダイソンの躍進を見て国内外メーカーが真似たモデルなんですが、研究不足とサイクロンの周辺特許をダイソンに押さえられているために充分な分離が出来ない不完全な掃除機です。低能サイクロンとでも呼べば分かりやすいでしょう。
分離が不十分なために短期間でフィルタが目詰まりし、能力を維持するためには頻繁にフィルタ掃除が必要になります。非常に手の汚れる掃除機です。これに関してはダイソンのCM通りですね。一部の最高級のサイクロン掃除機以外は全部これだと思って間違いありません。
偽サイクロン掃除機と言うのはサイクロン(粉体分離器)を積んでいない偽商品です。何でこんなまがい物が「サイクロン掃除機」として売られているのか理解出来ませんが、おそらく「サイクロン」と言えば商品知識の乏しい馬鹿が引っかかるとでも思っているのでしょう。
原理としては上の真空掃除機と全く同じで、ゴミの分離はモーター前フィルタのみで行います。つまり30年以上前の掃除機だと言う事です。見分け方は簡単で、安価で写真の様に紙パック掃除機と同じ外形をしています。当然ですが、最も手の汚れる掃除機です。
ロボット掃除機の多くは空気を吸い込みません。本体底部にある回転ブラシでゴミを掻き込むだけですね。ですから電気掃除機と言うより電動ホウキと呼んだ方が良いかも知れません。ブラシで掻き込むだけですから取りこぼしも多く、フローリンク以外ではあまり役に立ちません。
それでも自動運転してくれるメリットは大きく、共働きのご家庭や高齢者世帯にとっては強い味方とは行かないまでも重宝する掃除機には違いありません。新しい家電製品である事から年々性能が向上して行くのも大きな魅力ですね。
6種類の分離方式についてもう少し細かくご説明します。各掃除機の長所短所が一番ハッキリ出るのがこの部分ですから、掃除機選びの重要なポイントになります。言葉だけだと分かりづらいでしょうからちょっと図にしてみました。ご覧下さい。
ご覧の通り、各掃除機の違いは吸い込んだゴミと空気をどうやって分離するかの違いだけです。言い換えると、第一フィルタに何を使っているかの違いが各方式の違いと言う事です。紙パックもサイクロンも役割としては空気清浄機等のフィルタと同じ様な事をしていると言う事ですね。こう考えると掃除機の見方が少し変わって来るのでないでしょうか?
空気清浄機も掃除機もモーターで風を起こして、その力を利用してゴミやホコリを集めるのが仕事です。扱うゴミが空中に漂う軽く小さな物か、床やカーペットの中に落ちている重い物かの違いしかありません。そう考えるとホコリを集める風量(吸込仕事率)と集めたホコリを分離するフィルタ(紙パック、サイクロン等)の性能の良し悪しが2つの家電の良し悪しを決める大きなポイントになると言う事ですね。
こう言う視点で掃除機を語るブログは少ないのですが、掃除機の仕組みを理解していれば造作もない事です。カタログスペックを並べ立てたり、メーカーの宣伝文句を書き写しても良い掃除機を見分ける事は出来ません。メカが苦手な皆さんには少し退屈かもしれませんが、なるべく分かりやすく説明して行きますから頑張ってついてきて下さいね(笑)
紙パック式は目に見えない小さな穴が開いた紙パックでゴミを濾して分離します。紙パックをすり抜けた微小な粉塵は、モーター前フィルタで漉されます。ゴミを漉された空気はモーター等の冷却用に利用されますが、この時にモーターから微量のカーボン等の粉塵が出ます。モーターから出た粉塵や、モーター前フィルタをすり抜けた微小な塵は最終フィルタで再び漉された後に排気として外へ放出されます。高性能な紙パックほど粉塵の漏れは少なくなります。
サイクロン式は紙パックの代わりに粉体分離機(サイクロン)でゴミと空気を分離します。ですがサイクロンは構造上の欠陥により、微量のゴミが分離されずにそのまま放出されてしまいます。そのため、これをモーター前フィルタで漉し取って処理しています。ですから、定期的なフィルタ掃除が必須になります。高性能なサイクロンほど粉塵の漏れは少なくなり、フィルタ掃除の回数が減ります。
似非サイクロン式は粉体分離機(サイクロン)を使ってはいますが、非常に分離能力が低いために大量のゴミをモーター前フィルタで処理しています。ですから頻繁にフィルタ掃除をしなければなりません。使用頻度にもよりますが、最低でも月に1度以上のフィルタ掃除は必須です。低性能な物ほど掃除の回数は増えて吸引力が落ちて行きます。
偽サイクロン式はサイクロンとは名ばかりでゴミを分離する特殊なメカニズムは搭載していません。ですからずべてのゴミをフィルタだけで分離しています。当然、フィルタは一回掃除をするだけで絶望的に汚れます。吸引力を維持するためには頻繁なフィルタ掃除が必須になり、しかもその際に激しく手が汚れます。が、その代わり安いです(笑)
何でわざわざお金払ってまで偽サイクロンモデルを買う人がいるのか私には理解出来ませんが、お買いになった方の多くがこうしたメカニズムについてご存知無かったのでしょう。確かに紙パックは必要としませんが、分離方式としては最低ランクの商品です。何か特別な理由があるならともかく、この方式だけはお止めになるのが賢明です。
サイクロン方式などは中級以上の掃除機には自動でフィルタを掃除する機能が搭載されていますが、あまり期待しない事ですね。基本的に掃除の頻度をある程度減らすだけの機能ですからフィルタ掃除が不要になる訳ではありません。
掃除機の掃除がしたくなければ紙パック式をお選びになる事です。こちらは文字通り一切のお手入れは不要です。
サイクロン掃除機に関しては皆さん混乱していらっしゃると思いますので、開発された時系列順に表にまとめて見ました。
ご覧の様に現在販売されている「サイクロン掃除機」はこの20年足らずの間に出現した物です。では最新技術なのかと言うと全く逆で、基本技術としては90年近く前の物ですね。
別に新しいから良い、古いから悪いと言うつもりはありませんが、サイクロン掃除機は新しい物でもなければ特別良い物でさえありません。この辺りについては後で詳しくご説明して行きます。
現在では一般的な真空型掃除機では紙パック式が最新技術で、それ以外ではロボット掃除機が最新技術になりますね。
集塵方式や分離方式の違いは掃除機の中身の違いになりますが、掃除機の見た目や形状等の形式にも違いがあります。まあ、性格とルックスなんて言うと分かりやすいかもしれませんが、この掃除機の形式の違いはカッコ良い悪いと言う以外にも掃除機選びの重要な要素になります。
大きく分けると4つのタイプに分けられますが、ハンディー型にはロングノズルの付いたスティック型も含まれます。区分の仕方はメーカーや小売側の都合で違って来ますから、あまり神経質に考えない方が良いでしょう。
1つ目は皆さんお馴染みの車輪が付いてホースを持ちながら床を引き回すキャニスター型です。掃除機は重いモーターとゴミを溜める大きなスペースが必要になりますから、どうしても重く大きくなります。キャニスター型は本体に車輪を付けて人が引き回す事で移動を楽にした方式です。
合理的な方法の上に比較的小回りが利きますから、日本やヨーロッパでは主流の形式です。一般に掃除機と言えばこの形を指します。
アップライト(縦)型掃除機は主に北米で主流の形式です。このアップライト型はカーペット掃除に特化した形式で、車輪の付いた大型のモーターヘッドの上に掃除機本体が縦に装着されています。非常に重たく取り回しに苦労する反面、荷重がモーターヘッドにかかるますからカーペットとヘッド部の密着度が上がる事でカーペットの奥に入り込んだ土埃を掻き出しやすくなる長所があります。
また自走式になっていますから、人はグリップを持っているだけで勝手に進んで行きますので直進している間は非常に楽です。但し、小回りがききませんから方向転換の際や細かい部分の掃除には不向きですね。アメリカのだだっ広い家に特化した形式だと思って下さい。
ハンディー型は文字通りコンパクトで片手で操作できる掃除機を指します。コード付きとコードレス両方ありますが、コードレスタイプの人気が高いです。元々、ハンディー型はアメリカの自動車用の掃除機として発展して来ましたが、現在ではキッチン用やペット用など用途別に特化したモデルが増えています。
スティック型はハンディー型にロングノズルを付ける事で、立ったまま掃除が出来るように改良された派生型モデルです。ワンルーム等の狭いスペースの掃除や、ちょっとした掃除用のセカンドマシンとして最近人気が上がっています。但し、ハンディー、スティック両方とも非常に非力でキャニスターやアップライトの様な高い能力は持っていません。
「オシャレだから」「安いから」なーんて軽い気持ちで手を出すと、「うるさいだけでゴミを全く吸わないぞ!」なーんて頭から湯気を上げる事になりますよ(笑)
ロボット型は円盤型の全自動掃除機ですね。人が全く関与しなくても自動で掃除しますが、運転アルゴリズムは露骨に価格差に表れるのが難点です。つまり、安物ロボット掃除機にまともに掃除をさせようと思うと、予め部屋を片付けておく必要があるアホの子掃除機です(笑)
アホの子ですから段差を乗り越えられずに止まる、玄関に落ちる、壁や家具に体当たりして傷だらけにするなんて事は日常茶飯事です。「自動で家事をする機械」なーんて考えると二階の窓から放り出したくなりますから、「掃除の真似事をするロボット型ペット」とでも考えて下さい(笑)
掃除機の種類としては以上の区分けになりますが、個々の機能としては色々と差別化が図られています。
まず、ヘッド部分に動力の付いたモーターブラシとそれ以外とでは色々と差があります。また、花粉等のアレルゲン物質の排出や臭いを防ぐ排気の綺麗さに特化したモデルも存在します。さらに、昨今共働きの家庭が増えた事もあり、夜間に掃除をする家庭向けに静音化を推し進めたモデルもあります。また、高齢者が使いやすいように軽量化に特化したモデルも出て来ました。
これ以外にも純粋な掃除機とは言えませんが、スチームクリーナーや高圧洗浄機等も広義の掃除機の範疇に入るでしょう。
つまり、皆さんは色々な機能的特色を持った数多くの掃除機から意中の1台を選ぶ事になる訳ですね。こう書くと非常にややこしい話に思えるかも知れませんが、実際はいたってシンプルな話です。
掃除機選びで大切な事は
1.かけられる予算を決める事。
2.必要な機能を上げて、それに優先順位をつける事。
3.上の2つをすり合わせて何れかを妥協する事。
この3つです。当たり前の話じゃないかと思われるかも知れませんが、掃除機の様なアナログな機械は能力差がそのまま価格差に反映します。高い機械が必ずしも良いとは限りませんが、残念ながら安くて良い機械は存在しません。良い機械は高いです。その辺りを踏まえていないと、目移りばかりしていつまでたっても決められなくなります。
次章以降で詳しくご説明しますが「軽くて、排気が綺麗で、静かな掃除機を1万円以内で…」なんて言ってる間は絶対に選べません。なぜなら、そんな掃除機は存在しないからです。
では予算を増やせば良いのかと言うと残念ながらそうも行きません。例え高価であったとしても、小型軽量の空気清浄機に静かな物も風量が多い物も実質的な捕集率が高い物はありません。特に軽量である事は他の全ての要素を犠牲にしなければなりませんから、「軽さ」を第一に考えるなら他の要素は望むべくもないでしょう。
また、それが静かさであれ排気の綺麗さであれ、要求を満たす掃除機の価格はどんどん上がって行きます。少なくとも2万円以下の掃除機で複数の要求を満たす物はありません。
あれもこれもと注文を付けるのは簡単ですが、それには純然たる対価が要求されます。声高に要求すれば誰かが払ってくれる訳ではありませんから、機能と対価のバランスを取るのは皆さん自身の仕事です。
ご家庭のライフスタイルや環境、そして実際に使う人の性格なども考えながら皆さんにとってベストな物を見つけて下さいね。
もちろん、一番のネックは予算になりますけど(笑)
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集塵方式による違い
始めに
真空式掃除機

紙パック式掃除機

サイクロン式掃除機

似非サイクロン式掃除機

偽サイクロン掃除機

ロボット掃除機

分離方式の違いの説明




電気掃除機の開発の歴史から見た集塵方式の違い

本体形式による違い
始めに
キャニスター型掃除機

アップライト(縦)型掃除機

ハンディー型掃除機

ロボット型掃除機

各種機能や方向性の違い
掃除機選びのポイント
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