炊飯器と内釜の種類や性質、また特殊な内釜やコーティングなど炊飯器全般について大まかなお話しをさせて頂きます。
炊飯器は嗜好品?
実は白モノ家電の中で一番選ぶのが難しいのが炊飯器です。なぜなら、数ある生活家電の中で「評価=味」なのがこれだけだからです。空気清浄機ならフィルタ性能と風量、掃除機なら吸引力とヘッドの性能、これらの数値を見れば機械の性能はある程度判断出来ますが、炊飯器には比較出来る数値が存在しません。
しかも、味覚と言うのはあいまいで個人差の激しいものですから、これを基準に炊飯器の良し悪しを判断するのはとても難しい作業になります。同時に、人によって評価が分かれるために「定番」と呼ばれる商品がありません。
つまり「機械の事はよく分からないけど、取り合えずコレを買っておけば安心」、これが炊飯器にはありません。ですから、皆さんはご自身の好みに合う炊飯器を自力で見つけ出さねばなりません。
さらに予算の問題もあります。同じ5.5合炊の炊飯器でも安い物は5千円、高い物は10万円を越えます。単価が安いので見落とされがちなんですが、白モノ家電の中で同程度の性能で価格差が20倍以上あるのは炊飯器だけなんです。テレビやエアコンだってこんなに価格差はありません。
「でも10万円の炊飯器なら5千円のよりずっと美味しいのでしょう?」普通はこう考えますよね?実はこれが大きな落とし穴なんです。
一般家電で20倍価格差があれば非常に高性能の物になるのですが、炊飯器に限っては必ずしもそうとは限りません。2台の炊飯器で炊き比べをして、100人でマスクテストすれば必ず何人かは安い炊飯器のご飯の方が美味いと感じる人が出てくるでしょう。
大量の商品、あいまい過ぎる基準、大き過ぎる価格差、こんな中で一台を選ぼうとすると、必ず出て来るのがオカルト要素です。高いから、高価な内釜を使っているから、特殊な機能があるから、「~だから美味いに違いない」と言う思い込みですね。また、メーカーの狙い所もその辺りになります。
残念ながら私はエクソシストではありませんので、思い込みの悪魔を退治する事は出来ません(笑)
そこで、良い買い物をする為に少しだけ科学の力を借りましょう。まずは炊飯器の種類と特徴のお勉強からです。
炊飯器の種類
始めに
現在、炊飯器には加熱方式で分けると、マイコン、IH、圧力IH、ガス炊飯器の4種類あります。
電気炊飯器は加熱方式は3種類ですが、この上に特殊な内釜を使った高級グレードのプレミアクラスの炊飯器があります。全体で見ると大まかに7つのグレード、あるいは種類に分けられます。
ガス炊飯器は加熱方式は1つですが、追加機能で分類すると4種類に分けられます。分かりづらいので表にしてみました。ご覧下さい。
メーカーによっては、もっと細かく分類している所もあれば、少ない所もあります。ですから、これはおおよその目安とお考え下さい。
それでは各炊飯器の特徴をざっとご紹介しましょう。個々の細かい説明は次章以降で詳しく解説しますから、ここでは大まかな特徴だけ見ておいて下さい。

マイコン炊飯器(3千~8千円)
マイコン炊飯器はシーズヒーター(電気ヒーター)で内釜の底を加熱して、マイコンで加熱制御する炊飯する方式です。ですから、本来はシーズヒーター炊飯器とでも呼ぶのが正しいのですが、マイコン制御が初登場した時の商品名がそのままこの方式の通称になりました。
マイコン炊飯器は構造が単純でお手入れも楽で、故障が少なく電気代も安く、しかも安価な炊飯器です。世界で最も売れている炊飯器です。
反面、IH方式などと比べると熱量が低く、内釜の底しか加熱しませんから、3合以上炊くような場合は炊きムラが出やすくなります。また、保温機能は全般的に低性能ですから、保温を多用されるご家庭には不向きです。
現在では、IH炊飯器の低価格化から主に3合炊きが主力になって来ました。これは少量炊飯の場合は大きな火力は必要ありませんから、マイコン炊飯器でも充分に美味しく炊ける事に由来します。実際に2合炊き程度なら、高価なプレミア炊飯器と炊き上がりは大して違いません。そう言った点から、少人数のご家庭にお勧めの炊飯器です。

IH炊飯器(8千円~)
IH炊飯器は底部に設置したIHコイルにより電磁波を発生させ、その電磁波で内釜の底自体を発熱させ炊飯する方式です。加熱制御はマイコンで行ってます。原理としてはIHクッキングヒーターと全く同じで、発熱するのがフライパンか内釜かの違いだけです。
IH炊飯器はマイコン炊飯器より熱効率が良く、強い火力で炊飯出来ます。また、中級以上のモデルは底面以外に側面にもIHコイルを設置する事で側面からも加熱出来ます。このお陰でマイコン炊飯器より炊きムラが少なくなっています。
また、IH方式は細かい温度調節が出来るため保温能力が大きく上がっています。さらに圧力IH方式と違い炊く物を選びません。五穀米だろうが玄米混じりの白米だろうが、何でも炊き上げてしまいます。
反面、マイコン炊飯器に比べると電気代がかかります。また、IH方式は電磁波を発生しますから炊飯時は離れる必要があります。
全体的に見て3人以上のご家庭、もしくは3合以上炊飯するご家庭はマイコン炊飯器よりIH炊飯器をお選びになると良いでしょう。また、保温を使われるご家庭や雑穀米がメインのご家庭も同様です。
味の傾向としては硬めでシャリ感が強いご飯が炊けます。圧力IH炊飯器との違いは炊き上がりの食感だけですから、腰のある硬めのご飯がお好きな方はこちらを選ばれると良いでしょう。

圧力IH炊飯器(1万5千円~)
圧力IH炊飯器は加熱の方式はIH炊飯器と同じなんですが、これに圧力機能を追加して加圧調理するのが特徴です。原理は圧力鍋と同じですが、法令により1.4気圧までしか加圧出来ません。ですから圧力鍋ほどゴツくはありません。
原理は単純ですが、加圧する事で沸点を100℃以上に上げる事が出来ます。この事で高温調理と炊飯時間の短縮が可能になり、米の糊化が促進されモチモチ感と甘味がアップします。
また、加圧調理しますから高地などの気圧低下の影響を受けにくいので、他の方式の炊飯器より美味しく炊き上がります。高地にお住まいの方にはこのタイプの炊飯器をお勧めします。
反面、メカニズムが複雑になりますからお手入れも面倒でトラブルも多いです。特に加圧する事によりパッキンの劣化が非常に速く、毎日炊飯される場合は2年程度でパッキン交換が必要になる場合もあります。
また、加圧する事で雑穀米のように炊き上がる時間が異なる物が混ざった物は上手く炊けません。白米が溶けてしまいます。機種によって炊ける物と炊けない物がありますから注意して下さい。
また、水加減も非常にシビアです。大雑把な人は他方式の方が良いでしょう(笑)
味の傾向としては柔らかめでモチモチとした食感です。ふっくらとした柔らかいご飯がお好きな方はこちらを選ばれると良いでしょう。保温等の機能はIH炊飯器と同じです。ですから炊き上がりの食感の好みでお選び下さい。

プレミア炊飯器(4万円~)
プレミア炊飯器と言うのはグレードの事ですから、加熱方式はIHか圧力IH方式になります。違いはこれらの方式に高価な付加価値を付け足したのがプレミア炊飯器、もしくは高級炊飯器と呼ばれる物です。
高価な付加価値の代表的な物が高価な内釜です。炭素、土鍋、南部鉄、さらにこの夏の新型モデルでは鍛造鉄釜に削り出し釜なんてのも登場しました。これらの内釜には単体で数万円する物もあり、価格の半分が内釜代なんてのもあります。
「そんなに高価な内釜を使っているなら、さぞかし美味いご飯が炊けるのだろう」、普通そう考えますよね? で、これが一番の長所です(笑)
実はこのクラスの高級内釜は極端な性質を持った物ばかりで、それまでのIHや圧力IH炊飯器で築き上げてきたバランスや方向性を全く無視しています。中には間逆の性質を持つ物もあるのですが、メーカーはより美味しくなったと言っています。つまり、完全なダブルスタンダードなんです。
どちらが嘘なのか、どちらも嘘なのかは分かりませんが、プレミア炊飯器の半分はオカルトで出来ていると思って下さい。良い悪いではなく、信じるか信じないかです。まさに信仰の対象ですね(笑)
味の傾向も機種によって大きく異なるので一概に言えません。ただ、共通しているのは電気をバカ食いするのでブレーカー落ちの心配がある事と、全体的に大きく重いです。中には8kg越える物もありますから、下手な炊飯器ラックだと入らなかったり壊れてしまいます。
買う側に環境整備と覚悟の要る炊飯器です。

ガス炊飯器(1万円~)
ガス炊飯器はガス火で内釜を加熱する方式、つまりガスコンロに鍋をかけるのと同じです。原理は単純なんですが、電気炊飯器との大きな違いはやはり火力です。1800℃のガス火に対して200VのIHクッキングヒーターでさえ最高800℃程度ですから、100Vの炊飯器では高々しれています。この火力の違いが炊き上がりの差になります。
そんな訳ですから、出来るだけ安い出費で確実に美味しいご飯が食べたい、と言うのならガス炊飯器がお勧めになります。
反面、色々と短所もあります。オール電化のご家庭を除いたとしても、設置に一苦労します。写真で見ると小さく見えますが、実際は非常に大きく、特に背が高いので通常の炊飯器ラックには入りません。またガス管の取り回しも厄介です。
さらに、ガス炊飯器メーカーはパロマとリンナイだけですから競争が少なく割高です。そのため、便利なタイマー機能が付いたモデルは2万円程度します。
また、競争の少なさから開発は低調で、特に保温能力は電気炊飯器に大きく劣ります。長短両極端なのがガス炊飯器の特徴です。

内釜の種類
始めに
炊飯器選びで頭を悩ませる物の1つがこの内釜です。種類が多い上に、どの内釜も熱伝導だの蓄熱性だの物凄く良い事しか書いていませんから、調べれば調べる程どれが良いのか分からなくなる方も多いのではないでしょうか?
さらに、「内釜は重い方が美味い」だの「厚い方が美味い」だの、ネットの口コミを読んで頭を抱える方もいるかも知れません。ウチの炊飯器の内釜は薄くて軽いからダメなんじゃないか、ってね。
安心して下さい。その手の話はほとんどデマです(笑)
特に高級内釜の大半はオカルトで出来ているのです。
内釜の素材と特性
内釜は様々な種類の金属や素材で出来ていますが、これらの物質には素材としての特性値と言うものがあります。どれだけ加工しても本来の特性から大きく逸脱する事はありませんから、素材の特性を理解すればそれを使った内釜の性質が見えて来ます。
また、どんな素材にも内釜の材料としてはプラスの部分とマイナスの部分を持っています。ですがメーカー側はプラスの部分の話はしても、マイナス部分については一切語りません。この事が内釜選びを難しくしている大きな理由の1つです。
ではIH、圧力IN炊飯器に求められる理想的な内釜の特性とはどんな物でしょう? ちょっと考えて見ましょう。
これ以外にも断熱性、堅牢性なども重要な要素です。
素材ごとに比較してみるとこんな感じになります。
発熱効率は比較できる数値が見つからなかったのですが、おおよそ炭素>鉄≧ステンレス>(約6分の1)アルミ≧銅の順に効率が高くなります。
つまり、発熱効率と熱伝導率と比熱が高く、防錆性と断熱性と堅牢性に優れている素材があれば内釜には理想的なのですが、残念ながらどの素材も一長一短があり決め手にはなりません。
アルミなどは比較的バランスが良いのですが、発熱効率が悪いので単独ではIHには向きません。ですから各社とも持てる技術を投入して、性質の異なる素材を多層構造にする事で、長所を引き出し短所を補いバランスを取っている訳ですね。
では次に、個々の内釜について見て行きましょう。
発熱効率 | IHは電磁調理器ですから、使う金属によって発熱する効率が違います。当然効率が高い鉄や炭素などの方が有利です。逆に効率の悪いアルミや銅は不利になります。 |
熱伝導率 | 発生した熱は素早くお米に伝える方が有利です。この数字が高い銅や銀などの方が早く伝わります。逆に、数値の低い土鍋やステンレスでは不利になります。 |
比熱 | これはちょっと難しいのですが、物の温まり易さと冷め易さの事です。温まり易く冷めにくい方が有利なのですが、残念ながらどちらか一方の性質しか選べません。温まりにくく冷めにくい物の代表がアルミです。土鍋や炭素も似た特性です。逆に、銀などは不利になります。 |
防錆性 | 水と熱と言う、サビの温床となる環境下ですので、錆びにくいステンレスなどが有利です。 |
材質 | 比熱(J/kg℃) | 熱伝導率(W/mk) |
鉄 | 461 | 67 |
ステンレス(ニッケルクロム鋼) | 470 | 15 |
アルミ | 900 | 204 |
銅 | 419 | 372 |
銀 | 234 | 418 |
炭素 | 691 | 23.9 |
珪素(土鍋の主成分) | 678 | 5 |
アルミ釜
アルミ釜は主にマイコン炊飯器で使われています。理由は上の数値を見れば一目瞭然で、マイコン炊飯器の内釜の役目はシーズヒーターで発生した熱をお米に伝えるだけですから、熱伝導率と比熱の高いアルミは理想的な素材になります。
当然、多層化する必要も内釜を厚くする必要もありません。そんな事をしたら熱効率が落ちてご飯が不味くなるだけですから(笑)
また、アルミは軽量で加工が容易で安価ですから、コストの制約の厳しいマイコン炊飯器にとっては理想的な内釜になります。さらに、炊飯器の中で最も美味しいと言われるガス炊飯器も全てアルミ釜を採用しています。内釜の仕事はマイコン炊飯器と同じで、ガス火の熱を伝えるだけですから。
「内釜は重い方が美味い」だの「厚い方が美味い」だのの風聞がデマだと言うのが良くお分かり頂けると思います。そんな馬鹿みたいな理由でメーカーは内釜を作っている訳ではありません。
まあ、最近はそうとも言い切れないみたいですけど(笑)

多層釜
多層釜はプレミアクラス以外のIHや圧力IH炊飯器で主流の内釜です。理由は上で見て頂いた通り、IH方式では理想的な内釜の素材が存在しないからです。無いから色々と苦心してる訳ですね。
構造的には中心に発熱効率の高い鉄やステンレスを使い、内側に熱伝導率の高いアルミや銅を貼り、外側には比熱や断熱性、防錆性の高い素材を貼り合せます。
こうして、それぞれの素材の長所を持ち寄って短所を補う事で、IH方式に向いた内釜に仕立てています。それだけに、張り合わせる素材のバランスが釜の良し悪しを左右します。
件のデマが広まったのは高級モデルの大半が多層釜を使っていた時代です。当然ですが、アルミより鉄やステンレスの方が素材として重く、さらに何層も張り合わせる訳ですからさらに重く厚くなる訳です。
多層釜が厚く重いのはIH方式に合わせた苦肉の策であって、内釜の性能とは無関係の話です。実際にガスで炊けば多層釜よりアルミ釜の方が美味しく炊けるでしょう。
また、数年前は各メーカーは多層釜の張り合わせる枚数を競っていた時期があったのですが、プレミア炊飯器が単一素材の内釜を使うようになってからは枚数競争は無くなって来ました。「5層だから美味い」だの「8層だからさらに美味い」だの言ってたあれはどうなったのでしょうか?(笑)
メーカーの言う美味しさなんぞ、その時々の流行り廃りで180度変わります。どこぞの党の公約より当てになりませんから軽々にお信じにならない事です。
炊飯器は3年一昔です。そして、昔の事は綺麗サッパリ無かった事になる、メーカーに取ってとても都合の良い世界なんです(笑)

炭素釜
プレミア炊飯器の先鞭になったのが、この三菱の炭素釜です。炭素と言うのはIH方式の内釜としては素材の適正値は高いのですが、加工の困難さと強度の問題から無視されて来ました。
それを、炭素の塊から内釜を削り出すと言うコストを度外視したやり方で実用化した訳です。これだけで並の炊飯器が一台買える価格です。
炭素の特性は発熱効率と比熱が高く、逆に熱伝導率が低いですからガス火にかけた時の土鍋に似ています。もっとも、ガスとIHでは火力が違いますから、性質が似ていると言うだけで土鍋の炊き上がりになる訳ではありません。
炊き上がりの傾向としては硬めに炊き上がると言う感想が多いです。ただ、これは炭素釜の特性なのかIH方式の特徴なのかはハッキリした事は分かりませんが、炭素釜の発熱効率の良さが反映している事は間違いないでしょう。
この内釜は炊飯に限れば優れた性質を持っていますが、問題は強度です。炭素と言うのは鉛筆の芯と同じで非常に脆く、ちょっとぶつけると簡単に欠けてしまいます。床に落としたら割れてしまったなんて話も聞きます。
高価な上に、とても取り扱いの難しい内釜です。

鉄釜
鉄釜を最初に採用したのは特殊鋼で有名な日立ですが、象印も南部鉄を使った鉄釜を採用するなど徐々に広がりを見せ始めています。この業界はマネされてナンボの世界ですから、単一素材の釜の中では一歩リードしています。
鉄の特性値の長所は発熱効率の高さですが、他の項目でも極端な欠点を持たないのも特徴です。特に優れてはいないが、大きく足を引っ張る要素も無い。素財としての鉄の汎用性の高さが、内釜の世界でもそのまま反映されています。
炊き上がりの傾向はこれと言った特徴はありません。鉄釜の特徴と言うよりもメーカー毎の違いや圧力IHの特徴が反映しています。ですから鉄釜自体に過度な期待をすると拍子抜けします。炭素釜や土鍋釜は良くも悪くも特徴がありますが鉄釜にはありません。逆に、中庸な物がお望みなら悪い選択ではありません。
鉄は色々な加工が可能なのでメーカーにとっては良い素材なんですが、問題は使う側です。何と言っても重いです。内釜だけで2kg近くあります。お店で持って頂けると分かりますが、本当に重いです。
田舎の両親に美味いご飯を食べさせてやりたい、なんて思って鉄釜の炊飯器を送ったりしたらタチの悪い嫌がらせになります(笑)
毎日お手入れされるのは奥様方でしょうから、お買いになる前に必ずお店で重さを確認して下さい。でないと後で後悔する事になります。
もっとも、旦那さんがお手入れするなら絶好の機会です。鉄釜を買って、日頃の憂さを晴らしましょう(笑)

土鍋釜
土鍋釜は売り上げで象印やパナソニックに押されてきたタイガーが、起死回生を図って採用したかなりギャンブル性の高い内釜です。
と言うのも、土鍋は比熱こそ高いのですが熱伝導率が極端に低く、またそのままではIH方式では発熱しませんから、別途発熱材も必要になります。さらに土鍋は焼き物ですから、出来上がりサイズのばらつきや変形もあります。
常識的に考えて、土鍋は量産型の電気炊飯器の内釜には全く向いてない素材だった訳ですね。
タイガーの開発陣は相当ご苦労されたと思います。ただ一つラッキーだったのはコストの制約が緩かった事でしょうか。これで安く作れ、なんて命令されてたら技術者全員、胃に穴が開いたと思います。
結局、外側を銀でコートする事で発熱材とし、3回焼き締める事でばらつきを無くして土鍋は完成しましたが、これでやっとスタートラインに立っただけです。一番の難題は土鍋IH釜の火力制御です。
土鍋は比熱が高く熱伝導率が極端に低いですから、加熱を始めてからお米に熱が伝わるまでにタイムラグがあります。また、一旦熱くなると加熱を止めても簡単に熱は下がらず、余熱だけでどんどん熱が加わってしまいますから火力制御は非常に難しくなります。
実際はこれに気温の変化や炊く合数、あるいは玄米や雑穀米などの違いを含めた順列組み合わせになりますから、炊飯メニューのプログラミングだけで気が遠くなる作業になる訳ですね。私だったら逃げ出したくなる様な作業です(笑)
タイガーの技術者の皆さんは試食だけで7tの米を食べたみたいですから、苦労の程は想像するに難くありません。ご飯を見るのも嫌になったでしょうね。
さて、開発陣が苦労したから美味しいご飯が炊けるかと言うと、そう簡単に行かないのが電気炊飯器の難しい所です。努力が評価されるのは小学校までで、大人の世界は結果が全てです。
この土鍋釜、ナチュラルにおこげが出来ますから硬めのご飯がお好きな方には評価が高いですが、そうでない方には厳しい評価をされています。また、炊き上がりに少しムラがあるみたいで、その点を指摘する声もありました。
この辺りを見ると加熱制御はまだまだ改善の余地があると思います。
ハードルの高い作業ですが、開発陣の皆さんには頑張って欲しいですね。

特殊コーティング
特殊コーティングは内釜の種類とは直接関係ありませんが、内釜の性能の1つとされていますからついでにお話して置きます。
内釜にはご飯がくっつかないようにテフロンの様なフッ素樹脂コーティングがされていますが、このフッ素樹脂は傷つきやすいだけでなく、熱に弱く、しかも極端に熱伝導率が悪いので調理器具には全く向かない性質を持っています。ですから、プロの料理人は鉄や銅などのムクの鍋やフライパンを使う訳ですね。
美味しいご飯を炊きたいならフッ素樹脂コーティングを止めれば良いのですが、そうするとご飯が焦げ付いたりしてお手入れが面倒になり奥様方に嫌われます。
奥様方に嫌われると炊飯器が売れなくなりますから、ご飯が不味くなるのを承知でフッ素樹脂コーティングをしている訳です。まあ、メーカーなんてそんなもんです(笑)
そこで、折衷案としてフッ素樹脂に熱伝導率の良い素材を混ぜる事で、多少なりとも熱伝導率の悪さを改善しようと言うのが内釜の特殊コーティングです。
流れとしてはこんな感じなのですが、問題はその効果のほどです。フッ素樹脂コーティングは只でさえ剥がれやすい所へ、さらに混ぜ物をする訳ですから下手を打つと非常に剥がれやすくなります。一時パナソニックのダイアモンドコートが数ヶ月で剥がれる事故が続出しましたが、製造過程で何かミスがあったのでしょう。
剥がれにくいコーティングにするためには混ぜ物の量は少なくするしかありません。そして、混ぜ物の量を減らせば大きな改善には繋がりません。結局、この手の特殊コーティングはやらないよりはマシという程度の効果しか期待出来ないと思います。
オカルトとは言いませんが、机上の空論とか単なる数字遊びと言う方が正しいかもしれません。特殊コーティングがご飯の美味しさに占める割合は機械で計測しても数値化出来ない程度でしょう。
特殊コーティングを気にするくらいなら、内釜の保証期間を気にする方がよほど理に適っている思いますよ(笑)
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