空気清浄機のフィルタの種類や集塵の仕組み、そして個々の特徴や寿命についてお話させて頂きます。
始めに
空気清浄機の仕組みの次は、その心臓部に当るフィルタについてのお話です。口コミ等を読んでいると「HEPAじゃなとダメ」とか「HEPAだから空気が綺麗になった」とかの典型的なスペック厨の不毛な書き込みを目にしますが、こう言う人達に限ってフィルタがどうやって粉塵を捕集してるか全くご存知ありません。
多くの方が、空気清浄機のフィルタは目の細かいザルのような物で、そこに埃や花粉が引っかかって捕集されている思っておられるでしょうが実際は全く異なります。間違った認識を持っているから「目の細かいHEPAだから良い」とか「いやULPAの方がもっと目が細かいから良い」なんて短絡的な発想につながるわけですね(笑)
それが我が家の空気清浄機自慢で済んでる内は可愛い物なんですが、フィルタ=ザルみたいな認識でいると、やれホルムアルデヒドに効くだの鳥インフルエンザに効くだの、フィルタの捕集メカニズムを知っている人間なら一笑に付するデマにまんまと踊らされて役に立たない物を買わされてしまうわけですね。
馬鹿を見ないためには正しい知識を持つしかありません。
ちょっと小難しくなりますが、今回はフィルタについてお勉強しましょう。
フィルタの種類
まずはフィルタの種類から見ていきましょう。文字だけで説明するのもなんですから次の表をご覧下さい。こちらは三基計装株式会社さんからお借りした、塵埃の種類と適応フィルタの概念図です。
集塵フィルタには前回お話したプレフィルタ以外にも多くの種類のフィルタが存在します。家庭用空気清浄機の場合は、メインになる集塵フィルタは主に「HEPAフィルタ」と「高性能フィルタ」が使われています。
ご覧の通り、この2つは対応範囲がほとんど同じなんですが、HEPAフィルタはJISで定められた厳密な規格があり、それに適応しないとHEPAは名乗れません。以前は結構アバウトだったのですが最近は規格の適応基準が厳密になったために、以前は「HEPAフィルタ」を名乗っていたメーカーの多くが「高性能フィルタ」を名乗るようになりました。
早い話が、以前からHEPAでは無かったわけですね(笑)
数年前まではULPAを名乗るフィルタを使っていたメーカーもあるのですが、さすがにオーバースペックな上に交換フィルタがバカ高かった事もあり、現在は採用されていません。まあ、本当にULPAの規格を満たしていたがどうかは謎ですが(笑)
さて、そのHEPAフィルタと高性能フィルタの違いなんですが、家庭用空気清浄機のレベルではハッキリ言って大差ありません。HEPAフィルタは粒子捕集率99.97%なんですが、高性能フィルタも同じく95~99.5%程度あります。実用レベルでは誤差程度だと思って下さい。
まあ、こんな事を書くとスペック厨の人がすり抜ける粒子数に置き換えて文句を言いそうですが、おもちゃのような家庭用空気清浄機ではHEPAを使おうがULPA使おうが、実際の捕集能力では大差ありません。家庭用空気清浄機と言うのはそれ以前の能力だからです。
その辺りを、当のHEPAフィルタを使ってご説明しましょう。

HEPAフィルタ
HEPAフィルタとは
HEPAフィルタとは「High Efficiency Particulate Air Filter」の略で、和訳すると「高効率エアフィルタ」とでもなるでしょうか。ですから特定の商品に対する固有名詞ではなく、規格を満たした商品の総称です。
開発元のアメリカではフィルタの性能によってE10からU17の8つのクラスに分けられ、一般的にHEPAフィルタと呼ばれる物は粒子捕集率99.95%以上のH13と同じく99.995%以上のH14を指します。
日本のJIS規格では「定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」をHEPAフィルタと定められています。
圧力損失と言うのはマスクをした時に息苦しくなるのと同じ理屈で、摩擦抵抗によるエネルギー損失の事なんですが、まあ、フィルタの空気抵抗とでも考えて下さい。Paはパスカルの事で圧力の単位です。圧力損失を計る場合は数字が低いほど高性能になります。
分かりやすく言い直すと「0.3 µmの微粒子を10,000個吸い込んだ時に取り逃がすのが3個だけで、しかも適度に風通しの良いフィルタ」と言う意味になります。高性能なフィルタです。
HEPAフィルタは産業分野ではポピュラーな物で、病院や原発、あるいは工場のクリーンルーム等、感染や汚染の防止や浄化にと様々な現場で使われています。高性能ですが高価なフィルタです。

HEPAフィルタの歴史と運用
HEPAフィルタは1940年代に、アメリカ政府のマンハッタン計画(第二次大戦中の原爆実験)の際の放射性物質の飛散防止用に開発されました。実用化は50年代に入ってからです。ですから、元は軍事用の機密技術でした。まあ、ドラム缶さえ作れなかった国が、こんな物をポンポン開発する国と戦争して勝てるわけがありませんね(笑)
そして、HEPAフィルタは対放射能汚染用に開発された物ですからその運用は完全気密が原則です。現在でもクリーンルームのHEPAフィルタはシリコンゲルのシール剤で密封されています。
HEPAの規格も非常に厳密なもので、例えば細い針でフィルタに目に見えない小さな穴を開けただけでHEPAではなくなります。そのピンホールから大量の微粒子が流入して内部が汚染されるからです。
またHEPAフィルタは非常に脆く、手を触れれば簡単に、そして全く手を触れなかったとしても通常使用でも破損します。取り扱いは慎重を極め、当然ですがフィルタ表面を手で触るのは厳禁です。またクリーンルーム等では毎年HEPAフィルタの破損と気密のリーク試験を行います。小数点以下2桁の精度と言うのはこれだけの事をやって初めて維持できるのです。
こちらをご覧下さい。これは業務用HEPAフィルタの交換部品です。粒径0.3 µmの粒子99.97%以上の粒子捕集率と言うのは、このグレードの部品を使って初めて実現されます。
つまり、フィルタと空気清浄機本体との気密は全く保たれず、本体も隙間だらけで、HEPAと言う名前だけで輸送や装填の際の破損も考慮されない最低ランクのフィルタを使い、さらにランニングコストがかかるからと掃除機でフィルタを吸って使い回してる様な機械に、最初から99.97%以上の粒子捕集率を期待する方がどうかしています。
メーカーもその辺りは抜かりなく、HEPAフィルタの説明には小さく「フィルターの除去性能です。部屋全体への除去性能(空気清浄機自体の性能)とは異なります。」なんて注意書きをちゃっかりと書いています(笑)
HEPAフィルタはきちんと取り扱えば最強の門番ですが、肝心の城壁がひび割れて穴や隙間だらけでは意味がありません。それなのに「ウチの門番の侵入阻止率は99.97%以上じゃ」なんて自慢している王様がいたらどう思いますか? フィルタの理論値ばかり振り回している人達はこの王様と同じです。
HEPAフィルタはそれ自体が精密機器です。ですが現在各家電メーカーから発売されている物は、最初からその能力を発揮出来る精度では作られてはいません。HEPAフィルタもオカルトイオンと同じく、単なる客を釣るための道具と化しているのが実情です。

フィルタの構造と捕集の仕組みと効果
フィルタの構造
始めに
それでは、フィルタの基本的な事をお勉強しましょう。フィルタに関しては千代田テクノルさんが「エアフィルタについて」で分かり易く説明しておられます。詳しくはそちらをご覧下さい。今回はその中から幾つか要点を抜粋してご説明します。
フィルタの立体構造
その前にちょっと次の図をご覧下さい。
こちらはHEPAフィルタを広げた図です。ご覧の通り、フィルタはプリーツ構造になっていて、それを折り畳んで使っています。何故だかお分かりになりますか?
それは、限られたスペースの中で出来るだけ表面積を広く取るためですね。いくら圧力損失が小さいと言っても風を遮る事に違いはありません。大量の粉塵を瞬時に濾過するには処理する面積が広い方が有利ですよね。
これは大量のお客をさばくスーパーのレジと同じです。表面積を広げる事はレジを増やすのと同じ事になります。つまり、あの鬱陶しいレジ待ちの時間が短縮される訳ですね(笑)
同時に、フィルタは捕まえた粉塵を蓄える袋の役目もありますから、表面積を広く取る事は体積も増やす事になりますから大量の粉塵を保持出来るわけです。

フィルタの構造
それでは実際にフィルタの顕微鏡写真を見てもらいましょう。数字から察するに上は3千倍、下は千倍に拡大した写真だと思われます。
ご覧の通り、フィルタは目の細かいザルの様な物ではなく、ナイロンたわしの様な形状で中身はスカスカです。この形状のおかげで圧力損失が少ない、つまり風通しが良く長期に渡って使える訳ですね。
小さい粒のような物は捕集された粉塵です。何でこんなスカスカな物に小さな粉塵が捕集されるかと言うと、左に書かれている5つの効果、もしくは力によって捕集されます。
次はその捕集効果についてご説明しましょう。

フィルタの捕集の仕組み
慣性力による捕集
慣性力による捕集とは、比較的大きな粒子がフィルタ近くの空気の流れの変化に乗らずに、そのまま慣性力で直進して捕集される事を指します。慣性力が働くのはおよそ0.5μm以上の粒子からで、一般的には5~10μm以上の粒子に効果が高いと言われています。
この効果は粒子が大きいほど、また速度が早いほど強く働きます。

拡散による捕集
拡散による捕集とは、吸入された微粒子がブラウン運動によってフィルタ繊維に接触して捕集される事を指します。ブラウン運動は中学校の時に習いましたね。覚えてますか?(笑)
ブラウン運動とは空中の微粒子が空気の分子や水の粒子とぶつかって起こす不規則な動きの事です。0.1μm以下の微粒子は小さすぎるために、空気の分子とぶつかっただけで弾き飛ばされます。ですから、こうした微粒子は空気の流れとは無関係に不規則な動きをします。そのランダムな動きの果てにフィルタに衝突した微粒子が捕集される訳ですね。
また、サイクロン掃除機が微粒子を取り逃がす理由の1つがこれです。小さすぎる微粒子は空気の流れだけではコントロール出来ません。どれだけ強力なサイクロンを使っても一定量の微粒子は勝手に外へ飛び出してしまいます。
余談ですが、ブラウン運動と言う名前の由来になったロバート・ブラウンは植物学者で、彼は花粉の研究をしている際に偶然この運動に気がつきました。ですから、空気清浄機とは無縁ではない訳ですね(笑)
拡散による捕集は0.3μm以下の粒子に効果があり、0.1~0.01μmの範囲で最も効果が高くなります。
この効果は粒子が小さいほど、そして速度が遅いほど強く働きます。

さえぎりによる捕集
さえぎりによる捕集とは、吸入された粒子がそのままフィルタ繊維に衝突して捕集される事を指します。これは見たまんまですね、特に説明する必要はないでしょう(笑)
さえぎりによる捕集は0.1μmくらいから効果が現れ始めますが、一般的には1μm以上、強い効果が現れるのは10μm以上の粒子に対してです。当然ですがフィルタ繊維同士の隙間より大きい粒子の捕集もこの効果に含まれます。
この効果は粒子が大きいほど、そしてフィルタの密度が高く繊維が太いほど強く働きます。

重力による捕集
重力による捕集とは、吸入された粒子が重力により落下しフィルタ繊維に衝突して捕集される事を指します。空中の粒子は、空気の流れなどの運動エネルギーと、形や大きさによる空気抵抗と、重さによる重力のバランスで宙を舞っています。その際、気流が変化したり他の粒子と衝突したりして運動エネルギーが失われると、重力の影響で落ちて行きます。それがフィルタに衝突して捕集される訳ですね。
一般的には50~100μm以上の大きな粒子に強く働くと言われています。
当然ですが、この効果は粒子が大きいほど、そして速度が遅いほど強く働きます。

静電気による捕集
静電気による捕集とは、吸入された粒子とフィルタ繊維に静電気力(クーロン力)が働き、その力で吸着して捕集する事を指します。こちらも分かりやすいですね。これはイオン式や電気集塵式と同じ原理です。
但し、これは何も電気的処理をしなければ起きないわけではありません。空中を漂う粒子はその際の摩擦力によって静電気を帯びてしまいます。一定以上強く帯電した粒子は逆相の物質に吸着します。静電気が埃を呼ぶのは埃の方も帯電しているからですね。
一般的には25μm以下の粒子に強く働くと言われています。
この効果は粒子が小さいほど、そして速度が遅いほど強く働きます。

総合捕集効果
上でご説明した捕集効果をまとめたのがこのグラフになります。5つの効果の内の3つだけが上げられていますが、これは重力と静電気力は必ずしもフィルタ性能に影響される訳ではなく、風量や静電気量で数値が左右されますからフィルタの特性を示すが場合は通常含みません。
ご覧の通り、各捕集効果には得意とする粒子のサイズがあり、全ての効果が全ての粒子に働く訳ではありません。複数の効果が重なり合ってフィルタ全体の捕集能力を形作っています。フィルタ=ザルと言う認識が的外れだと言う事がお分かりいただけると思います。
総合の数値がおよそ0.15μm辺りで谷になっていますが、全てのエアフィルタはこの位のサイズの粒子の捕獲を苦手としています。
余談ですが、HEPAフィルタの規格が「0.3 µmの粒子99.97%以上~」になってますが、これはHEPAフィルタを開発した1940年代には、エアフィルタが最も不得意な粒子サイズが0.3μm辺りだろうと予測されていたからですね。実際は間違っていたのですが、運用上特に問題が無いので今でも0.3μmの粒子を使って試験しています。

フィルタ別捕集性能
次は、各フィルタの捕集性能を見てみましょう。
ちょうど上の図の天地を逆さまにした感じになります。捕集効率は下へ行くほど高くなり、やはり0.15μm辺りで最も効率は落ちます。HEPAフィルタも99.9%と0.3µmの粒子に比べて0.1%程度効率は落ちます。
ちなみにULPAフィルタの規格は「定格風量で粒径が0.15µmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245 Pa以下の性能を持つエアフィルタ」となっています。つまり、古すぎて精度の劣るHEPAの規格を見直して現実的な高性能フィルタの規格として策定されました。最高性能の超ULPAは99.999995%の捕集率を誇っています。
JIS規格の場合、フィルタの試験に使われる最も細かい粉塵は0.03μm程度の物です。ですから、それより小さい粒子に関しては理論値のみで実測値はありません。HEPAフィルタも性能測定は0.3µmの粒子を使いますから、全てのサイズの粒子を実測したわけではありません。µサイズになると測定するのも非常に困難な作業になります。
こうして見ると各フィルタで大きな差がある様に見えますが、各マスの数字を見てもらえばお分かりのようにグラフのマス目は均等に打たれていません。均等に打つと4色の横線が密に並ぶだけですので分かり易くしてるだけです。早合点してスペック厨にならないようにして下さいね。
さて、だんだんと頭が痛くなって来られたのではないでしょうか?(笑) 捕集率が0.1%違おうが0.00001%違おうが、家庭で使う分にはあまり意味はないですよね。全くその通りで、HEPAやULPAはその僅かな差が死線を分けるようなシビアな環境で使う物なんです。
電卓叩きながら、こうしたグラフや数値を食い入るように見つめる人達が使って初めて意味がある物です。
スペック厨の与太話に、真実味を出すために作られている訳ではありません(笑)

フィルタの寿命
フィルタの寿命とは
さて、捕集率の微小な差にあまり意味が無いとすると、皆さんが一番興味がお有りなのがフィルタの寿命だと思います。
一応、家庭用空気清浄機のフィルタの寿命は、日本電機工業会(家電メーカーで作る親睦会)のJEM1467規格で初期圧力損失が2倍になった時(空気清浄機の能力が50%にまで低下した時)に交換する事になっています。早い話が、目詰まりして風が半分しか通らなくなった時が寿命だと言う事ですね。
業務用のフィルタの寿命も同じような基準です。初期圧力損失が2~3倍になった時がフィルタの寿命と言われています。ですから、一見すると何も問題が無いように見えますね。ですがここに大きな落とし穴があります。
業務用の場合は空調用のダクトの中に設置されていますから、仮に風量は半分に落ちても室内の浄化能力に変化はありません。ダクトから吹き出す綺麗な風の量が半分に減るだけです。
ですが、単独で室内に設置する家庭用空気清浄機の場合は、風量が半分に減ると言う事は浄化できる部屋の広さが半分に減ると言う事なんです。
家庭用空気清浄機の対応畳数は上のJEM1467で定められた粉塵の処理能力によって規定されています。風量が半分に減ると言う事は浄化できる空気の量も半分に減りますから、対応畳数もそれに合わせて狭くなって行きます。
例えば10畳のリビングで10畳用の空気清浄機を稼動させている場合、フィルタ交換直前の空気清浄機は5畳程度の浄化能力しか持たないと言う事です。皆さんはそれを10畳用の空気清浄機と信じてお使いになっていると言う事ですね。しかもフィルタが長持ちしてお得だ、なんて感謝しながらね(笑)
メーカーの話を鵜呑みにしていると、馬鹿を見るのはいつも消費者なんですよ。
単独で室内に設置する家庭用空気清浄機と、クリーンシステムの一環として空調機器の中に設置する業務用空気清浄機の、フィルタ寿命の設定が同じである事自体おかしい訳ですね。条件が違いすぎるのです。
ですから、先に例を上げた10畳のリビングの場合、フィルタ寿命になるまで10畳分の浄化能力が欲しいなら20畳用の空気清浄機を購入する必要があると言う事です。
皆さん家電製品をお選びになる時に新品時のカタログスペックばかり注視しますが、機械に安定した結果を求めるならこうしたパーツの消耗や経年劣化による能力低下の事もお忘れになってはいけません。どんな高性能機であってもパーツが消耗するだけ能力が落ちて行き、末期には低性能機より劣るのです。
皆さん、知らない内に裸の王様になってませんか?
メーカーと言うのは、馬鹿にしか見えないドレスを売りつけるのが商売なんですよ。

フィルタ寿命の根拠と嘘
さて、最近ではどのメーカーも10年持つフィルタとやらが主流になっていますが、残念ながら私の知る限り最近のフィルタ業界にそんな驚異的な技術革新は起こっていません(笑) その辺りのお話をしましょう。
このフィルタが10年持つと吹聴する根拠になっているのが上述した日本電機工業会のJEM1467規格です。これによるとフィルタの耐用年数は「一日にタバコ5本分の煙のみを処理した場合」で算定しています。
実際にはタバコの本数だけで測定され、約18250本のタバコの煙を90%程度処理した場合にフィルタの寿命が来るという計算です。一日分と表示出来るタバコの最低本数が5本と定められているだけですから、別に20本で計算しても構わないのですが、まあ、どのメーカーも5本で計算しています(笑)
この段階で馬鹿馬鹿しくてツッこむ気にもならないのですが、この数字には花粉も大気汚染も調理の際に出る煙も、そうした生活環境から出る空気の汚れは全く考慮されていません。単純にタバコの煙だけです。
また、タバコの煙5本分がなぜ一日分と計算されるのか具体的な根拠もありません。
つまり、家で一切料理は作らず、花粉も飛ばず、近くに工場もなければ幹線道路もなく、黄砂やPM2.5も飛んで来ないくらい空気の綺麗な環境で、人の出入りも一切ないなら「一日にタバコを5本吸った場合のフィルタ寿命が10年」だと言う事だそうです(笑)
もう、アホらしくて開いた口が塞がりませんね。これじゃぁ何の意味もありません。
結局10年持つフィルタと言うのは、物差しの側を自分達に都合の良い目盛りに書き換えただけの話であって、現実にフィルタの寿命が延びた訳ではないのです。
実際、HEPAフィルタが10年持つと言い張ってるシャープの北米モデルには「HEPAフィルタの寿命は最大2年まで」と堂々と書かれています。海外モデルのHEPAフィルタは低品質の物でも使っているのでしょうか?(笑)
社団法人日本電機工業会と言うのは家電や電気メーカーで構成された組織ですから、規格その物も自分達に都合の良い形で策定されています。上のテストのレギュレーションなどは性能を過大評価し、試験の手間を最小に抑えた形になっています。要は大本営発表と同じと言う事ですね。
ですから、皆さんはメーカーの戯言には騙されずに「フィルタの寿命は通常使用で最大でも2年まで」で、しかもその時の空気清浄機の処理能力は新品時の半分と覚えておいて下さい。
さらにタバコを吸われる場合は、その本数に応じてフィルタの寿命は限りなく短くなって行きます。一日に何箱も開けるヘビースモーカーの場合は数ヶ月で寿命が尽きます。

フィルタの天敵
さてさて、そんな訳で通常でも2年程度しか持たないフィルタなんですが、その寿命をさらに縮める天敵のような存在があります。それが油煙です。
ここで言う油煙とは油の粒子を含む煙の事なんですが、皆さんのご家庭だと油を使った調理の際に出る煙の事です。一番分かりやすいのが焼肉やサンマを焼いた時に出る煙ですね。タバコやろうそく、線香の煙も油煙になります。
なぜ油煙がフィルタの天敵かと言うと、油の粒子はフィルタに取り付くと次々と結合して成長して行きます。ちょうど、雪の結晶が成長して行くのと良く似ていますね。
そこかしこで成長した油の粒は、やがて互いに結合してフィルタの表面に膜を張ってしまいます。こうなると一気に風量が落ちてフィルタの寿命が尽きてしまう訳です。換気扇フードやレンジフードをお使いの方なら大掃除の時のフードの汚れを思い出して下さい。あれと同じ事がフィルタ上で起こります。
油膜は粘度が高く、フィルタにしっかりと食い付いていますから剥がす事も出来ません。こうなったらフィルタを交換する以外手はありません。
真夏にエアコンの効いた自宅で焼肉を食べるのは至高の快楽の1つなんですが、その際に出る煙を空気清浄機に処理させると相応の対価を支払うハメになります。毎週のように処理させていると、2年どころか半年持たずにフィルタの寿命が尽きます。まあ、それでも店で食べるよりずっと安いですが(笑)
基本的に油煙の処理は換気扇や窓を開ける事で対処するのが定石です。ですから、フィルタを長持ちさせたいのであれば油煙の処理はさせない事です。これはタバコの煙の処理も同じです。
まあ、煙などの空気の汚れを処理するための機械を止めてしまうのもおかしな話なんですが、フィルタと油煙と言うのはそれほど相性が悪いものだと覚えておいて下さいね。

フィルタで繁殖するカビや雑菌
フィルタの寿命を決めるのは、粉塵の蓄積や油煙による圧力損失の増大だけではありません。集塵フィルタや次にご紹介する脱臭フィルタにとって最も厄介なのがフィルタで繁殖するカビや雑菌の問題です。
これは言葉で説明するより写真を見てもらった方が早いでしょう。下の写真は業務用HEPAフィルタ上で実際に繁殖していたカビや雑菌の電子顕微鏡写真です。
フィルタと言うのは室内の空気中のありとあらゆる異物を漉し集めるのが仕事です。空気清浄機は空気の掃除機ですから、その紙パックに当るフィルタにはカビやバクテリアや病原体等の雑菌も集まって来ます。こうした微生物は適度な温度と湿度と養分があればどんどん増殖して行きます。
空気清浄機は稼働中は絶えず風が吹き抜けていますから比較的湿度は低いのですが、内部に限ればモーター等の廃熱があるので室内よりも温暖です。また有機物の粉塵も集まって来ますから養分にも不自由しません。
つまり空気清浄機の内部はカビや雑菌が十分繁殖できる環境にあります。
病院や食品工場で使う業務用のHEPAフィルタには酵素や薬剤を染み込ませた抗菌タイプの物もあるのですが、2年の寿命を10年と偽ってまでフィルタ代の安さを強調する家庭用機のフィルタに高価な抗菌タイプは使いません。つまり、カビや雑菌は繁殖し放題になりますね。
これに追い討ちをかけるのが加湿機能を持ったタイプの空気清浄機です。本体内部に水トレイと加湿フィルタを備えた事で空気清浄機内部は多湿状態になり、カビや雑菌は爆発的に繁殖し始めます。
このタイプの空気清浄機をお使いの方ならお分かりだと思いますが、抗菌処理を施した加湿フィルタでさえ半年でカビだらけになります。まともな抗菌処理をしていない集塵フィルタは、見た目では分かりづらいのですが、その内部では大量のカビや雑菌が繁殖している事になります。
繁殖したカビの胞子や増殖した雑菌の一部はフィルタをすり抜けて、ファンを介して部屋中にばら撒かれる事になります。つまり空気清浄機自体がバイオハザード発生装置と化する訳です。
ここでもう一度「10年持つフィルタ」を考えてみて下さい。フィルタを10年使うと言う事は、10年間カビや病原体を培養して部屋に撒き散らして来たと言うのと同じです。真っ黒になった集塵フィルタに付着しているのは埃などではなく、カビや雑菌の一大コロニーかも知れませんよ。
空気清浄機のフィルターは言ってみればトイレットペーパーのような物です。確かに、10年持つトイレットペーパーは経済的かも知れませんが、私ならそんな物を使う気には到底なれませんね(笑)





脱臭フィルタ
脱臭フィルタとは
主に活性炭などの多孔質の物質を主原料として、揮発性有機化合物や化学物質、そして臭いの原因分子を吸着して蓄えるフィルタです。分解する訳ではありません。
臭いの原因分子は分子レベルの大きさなので、上で説明したブラウン運動による捕集しか期待出来ません。ですから、臭いの原因分子がフィルタに衝突する確率を上げるためにはフィルタの表面積を広げるしかありません。
活性炭は体積の割には表面積が非常に広く、また安価な原料なので広く使われています。脱臭フィルタの性能にもよりますが、高性能な物は東京ドームのグラウンド数十個分の表面積を持つ物もあります。
上右の写真は実際に活性炭の表面に化学物質が吸着している電子顕微鏡写真です。小さな白い点が化学物質です。皆さんがお使いの空気清浄機の脱臭フィルタには、こうした物がびっしりと張り付いている訳ですね(笑)


脱臭フィルタの寿命
ネットの口コミなどを読んでいると、「脱臭フィルタの寿命は7年と書いてあるのに1年経たずに臭くなった」なんて書き込みをあちこちで見ますが、まあ当然でしょうね。
脱臭フィルタの寿命の算定法は上の日本電機工業会のJEM1467規格(笑)です。これによると「一日にタバコ5本分の煙のみを処理した場合の、アンモニア、アセトアルデヒド、酢酸の三種のみの除去率の平均値が50%に落ちた時」を脱臭フィルタの寿命と定めています(笑)
要約すると、こんな物を信じる奴は底なしのアホと言う意味ですね(笑)
当たり前ですが、臭いと言うのは生物に起因する物もあれば有機化合物のように薬品に起因する物もあります。発生する量や種類も環境によって大きく異なりますし、悪臭の感受性も人によって違います。それをタバコの煙だけをテストして、一日をタバコ5本と言う根拠の無い数字で計算されても無意味です。
特に活性炭はアンモニアの除臭を苦手としていますから、三種合計の平均値ではこの数字が隠れてしまいます。この辺りの計算式には作為を感じますね。
そんな訳ですから、お使いの空気清浄機が3ヶ月で悪臭を放とうと別に不思議ではありません。余りにも現実離れした方法と論拠で算定された寿命ですから目安にもなりません。
「信じる者は馬鹿を見る」と言うのが空気清浄機メーカーからの心温まるメッセージです(笑)

脱臭フィルタの悪臭対策
始めに
まあ、悪臭を取るためのフィルタの悪臭対策と言うのも変な話なんですが、現実にそこかしこで起きている問題だけにちょっと考えて見ましょう。ただ、決め手になる物は正直言ってありません。一番良い手は素直にフィルタを交換する事です。
その1.シャープの空気清浄機は買わない
シャープは集塵フィルタが10年持つと嘘を付いていますが、その嘘がばれないようにフィルタの配置を変えています。前回ご説明したように、通常はプレフィルタ→集塵フィルタ→脱臭フィルタの順に並んでいますが、シャープだけプレフィルタ→脱臭フィルタ→集塵フィルタの順に配置しています。
こうする事で大半の粉塵は脱臭フィルタで処理されますから、確かに集塵フィルタの寿命は延びます。ですがその代わりに脱臭フィルタは短期間で消臭能力を失ってしまいます。シャープの空気清浄機は臭い、なんて口コミがありますが、その大きな原因がこの配置にあります。嘘がばれない様に別の嘘をついた結果です(笑)

その2.洗浄できる脱臭フィルタが付いたモデルを選ぶ
これが一番現実的な対応ですね。で、洗浄できる脱臭フィルタを標準装備している代表的なメーカーがシャープです(笑) まあ、犯罪に一番詳しいのは犯人ですから当然かも知れませんが(笑)
それでも脱臭フィルタの洗浄を厭わないと言うのなら集塵フィルタは長持ちしますから、それがお望みなら良いかも知れません。但し、洗浄する度に脱臭フィルタの寿命は減って行きますから、かかるコストは大して変わりませんが(笑)
だた、洗浄できる脱臭フィルタは出来ない物に比べると若干能力が劣ります。これは耐水性の構造材を使ったり、抗菌や滅菌の特殊処理が出来なくなりますから仕方ありません。また、洗浄可能回数も無制限ではありません。モノにもよりますが、通常は5~6回の洗浄で変形や破損が出て来ると思います。年3回洗浄してフィルタの寿命は2年程度と考えて下さい。
洗浄の仕方は各メーカーやモデルによって異なりますが、基本的に中性洗剤を使ったつけ置き洗いになると思います。この際、漂白剤やカビ取剤を少しだけ混ぜておくと除菌効果が期待出来ます。
但し、汚れは簡単には落ちません。だからと言って手荒に扱うとフィルタが壊れて脱臭能力が大きく落ちますので短気は禁物です。ブラシで擦ったり、揉み洗いなんて以ての外ですよ。新品同様に戻そうなどと欲張らないで、交換時期を引き延ばすぐらいの気持ちで定期的にお手入れして下さい。
そして、乾燥はしっかりと行って下さい。生乾きのフィルタはこの世の物とも思えない酷い臭いがします(笑) 完全に乾燥してから装填して下さい。それと、洗浄後の天日干しは避けた方が良いでしょう。変形の原因になりかねません。天日干しするなら、完全に乾燥してから行って下さいね。

その3.代用フィルタを使う
これは外道なやり方なんですが、高価な純正の脱臭フィルタを使わずに市販の安価な活性炭フィルタを代用して安く上げようと言う方法です。脱臭フィルタが洗浄出来ないタイプの空気清浄機を買ったが、短期間で悪臭が発生して困っている方なんかには良いかも知れません。
但し、消臭能力は大きく劣る上に全てのモデルで可能ではありません。脱臭フィルタが別のフレームに装填されていて着脱可能な物に限ります。また、加工には相応の技術が必要ですから腕に自身のある方以外は無理です。
やり方は市販の活性炭シートをフレームに合わせたサイズにカットして装填します。活性炭シートは安く買いたければロール売りの物をメートル単位で、ちょっと試してみるだけなら割高ですがカットされたシート売りの物を購入します。この時、純正の物と同じ厚みになるようにきちんと計算して下さい。1枚で不足なら必要なだけ重ねます。ぐらつく様でしたら糸で何箇所か縫い合わせます。
フレームに横板が入っていて、強い風を送っても活性炭シートが外れないならOKですが、曲がったり変形して隙間が開く様でしたらテグスや針金を使ってフレームを加工しなければなりません。ここで相応の技術が必要になります。
ここまでの説明で分からない所があると言うのであればお止め下さい。貴方には無理です。手順と難度を理解した上で、それでも試してみたいとお思いの勇者の方だけトライしてみて下さい。お勧めは出来ませんが(笑)
もし集塵フィルタで同じ事をしてみようかなんてお考えの方、無謀ですからお止め下さい。あれはDIYで出来る精度ではありません。空気清浄機が能力を喪失しますから集塵フィルタの加工代用はお止めくださいね。

その4.ファブリーズは使わない
余談ですが、奥様方の中には何でもファブリーズを吹き付けちゃう人がいますが、家電製品には絶対に使わないで下さいね。逆効果ですから。
ファブリーズに代表される消臭剤は、粘性の高い液体に微弱な殺菌剤と強力な芳香剤を混ぜた商品です。霧状に散布する事で小さな薬液の粒を作り、それに触れた菌は除菌しますが効果は限定的なものです。ですから、芳香剤で良い匂いを撒き散らす事で消臭したように錯覚させる訳です。何せ使った人が大量に吸い込み、嗅覚が麻痺しますから(笑)
メカニズムとしてはプラズマクラスターと良く似ています。いや、悪い意味で(笑)
そんな訳で殺菌消臭能力が低い上にまともな成分表示がありませんから、薬剤自体が雑菌の栄養源にもなりかねません。布などは短時間で染み込みますが、フィルタや筐体に取り付いた粘度の高い薬液は揮発するまでかなりの時間がかかりますから、そこに大量の粉塵が吸着して固まります。そこで得体の知れない成分を栄養源にして雑菌が繁殖する可能性がある訳ですね。
また、悪臭と芳香剤が混ざると名状しがたい臭いになりますから弊害の方が大きいです。ともかく、300円程度のオカルト消臭液で臭いが無くなくなるなら、業務用脱臭機を作っているメーカーの人達は苦労はしません(笑)
家電製品のメンテナンスとお部屋のお掃除を同列で扱ってはダメですよ(笑)

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